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『切り離された自己』の心理学 ~過剰適応からの回復~|2020/08/23(日)

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1)カウンセリングで訴えの多い心の悩みに、「過剰適応」があります。相手の気分を害することや、組織にとって面倒になるような言動を極力控え、場や集団、人の空気や期待に、自らを過剰に合わせ、率先して同調する。それが「過剰適応」です。自分の利害や都合、感情、本音を、瞬時に切り捨て、「本当の自分」を放置しているのが特徴です。

2)周囲の期待、高評価に沿うようにいい人になって、一生懸命に先回りし、相手や場に適応する。これが過剰になると、疲弊して心が折れたり、うつになったりしかねません。

他人から嫌な奴、つきあいが悪い人、残念な人と思われるのが嫌で、あるいは不安で、ついつい無理をして必要以上にニコニコ明るくふるまい、大丈夫なふりをしてしまいます。怖いのは、周りに受け入れてもらえず、のけ者にされて、(1人)ボッチになること。排除されることを恐れ、居場所がなくなることを、恥ずべきこと、みっともないこと、と思い込んでいたりします。(注:「恥」は、過剰適応の中核にあるテーマです。セミナーで取り組みます)

3)こうしたことの背景には「自分によって切り捨てられた本当の自分」の存在、課題があります。しかし、切り捨てられた自分に気づくことは、まずありません。何か変だな、と、どこかで感じたりすることはあっても、この違和感、不快感をすぐさま脇に追いやり、なかったことにします。代わりに、明るく元気な自分に戻ろうとします。気分を高揚、躁転、興奮させることで。栄養ドリンク、ファッションサイト、音楽、セックス、買い物、スピード、などなどが、そのスイッチです。

4)が、何にも増して気分を上げ、機嫌を良くしてくれるのは「人や組織からの高評価、ほめ言葉」です。人から持ち上げてもらうのは、何よりも欲しい栄養剤。評価の中心が、自分(の内側)にはなく、他人や組織の側(外側)にあります。そのため、つい、人の顔色をうかがったり、キョロキョロとまわりの様子を気にせずにはいられません。自分(の内側や心)には意識が向かず、そのため、自分の本音や気持ちについて考えることができません。

しかし、何かうまくいかないことがあると、脊髄反射的に自分のせいにします。なぜなら、波風を起こすくらいなら、自分が犠牲になる方がましだからです。

5)人や組織の評価を気にし、当てにしたのは自分ですが、ときに、心の中でそれがいつの間にか逆転して、人や組織に自分が支配、監視され、縛りつけられているような錯覚に陥って、苦しくなることがあります。しかし、人の期待や評価に添わないと、切り捨てられ、見捨てられ、バカにされかねない恐怖妄想をリアルに抱いているため、必死になってガンバッて、走り続けます。高評価、好評判を得るためです。

6)なぜなら、人の期待に添うことで得られる高評価、ほめ言葉、「いいね」の数は、気分を上げる最高の「ドラッグ(薬物)」だからです。それらは、過剰適応する人を、ハイにし、ワクワクさせ、うっとりとさせます。

一方、これが叶わない場合、気分が落ちて、とたんに不機嫌になります。この状態が、うつ病と誤解されることがあります。それは、医学的うつ病ではなく、心理的あるいは対人関係上のうつ状態です。

6)うつ状態に陥って苦しいときにすることは、またガンバルことです。ハイになって、ワクワクし、アゲアゲ気分に戻るためです。そこには、依存症のマインド・セットが潜んでいます。過剰適応の人は、依存症的気分の上がり下がり・悪循環にハマる傾向があります。それは、心の生活習慣病です。ですので、過剰適応との適切な取り組みには、依存症や共依存症への視座が欠かせません。

7)過剰適応する人は、人に支配、監視されている受け身の犠牲者であるように感じますが、相手から高評価、好評、ほめ言葉を得るようにウソをついたり、知ったかぶりをしたりして、相手を巧妙に操作、コントロールするところがあります。表向きには無力感、無能感、無価値感にさいなまれますが、自分が相手を操作できると妄想する万能感、英雄(ヒーロー、ヒロイン)感を隠し持っていたりします。

これは、たとえば、親の関係の悪さ、機能不全を自分が何とかしないといけない、と短絡的に思ってしまう小さな子どもの英雄感、全能感に端を発します。このタイプの子どもは、家族療法で「IP」と呼ばれます。(注:家族療法のIPと過剰適応とのつながりについては、セミナーでお伝えします)

8)切り捨てられ、見捨てられる自分は、”disowned self(DS、自分によって見限られ、縁を切られた自己)”、あるいは”not-me(自分でない自分)”です。

過剰適応する人は、DSまたはnot-meに関することで、苦しんでいます。なぜなら、切り捨てられた私こそ、「本当の自分」だからです。本当の自分が追いやられて、いなくなっているのですから、苦しくて当然です。

人生の道に迷っていても、不思議ではありません。

9)本当の自分が失われているため、過剰適応がうまくいき、仕事で成功しても、活躍しても、プロジェクトをやり遂げても、自分が満足しているのか、達成感を感じているのか、よくわかりません。適応がうまくいかなかった場合だけでなく、いやむしろうまくいった場合も、やったことがよかったのか、悪かったのかという疑問が、不快さや違和感とともに、こびりつくように残ります。

10)そして過剰適応には、もっとも理解されにくく、扱うのが難しいポイントが、1点あります。ここまで過剰適応について、会社、組織、学校といった「外的」なもの、外側に評価されよう、期待に添おうとして行うもの、といったニュアンスで書き進めてきました。

それは、誤りではありませんが、実は「内的」な期待、評価、価値が大きくかかわっています。ここを見誤ると、過剰適応からの癒し、回復、変化は、大変難しくなります。

11)切り捨てられ、見捨てられた “disowned self” あるいは “not-me” は、他の誰からでもなく、ことあるごとに、「自分」によって、何度も何度も排除され、遺棄され、放置されてきたのです。

にもかかわらず、この「切り捨て、遺棄する自身の存在」に気づくことは、大変困難です。自分ひとりで、私を見捨てる自分を見出すことは、至難の業です。関係療法を通じた他者からのサポートが欠かせません。

12)統合失調症治療の名人と言われた、H.S.サリバンは、「いい自分(good-me)」だけでなく、「悪い自分(bad-me)」との取り組みも、それほど難しくはない、と考えました。しかし、「私でない私(not-me)」への関わりは、容易ではないと述べています。どうしてでしょうか? 「悪い私」と、「私でない私」とでは、何が違うのでしょうか?

あなたは、どう思いますか?

13)「いい私」も、「悪い私」も過剰適応の<傘下>にあります。一方、「私でない私」は、過剰適応の<外>にあります。この<外部>にある「私でない私」が、過剰適応からの癒し、回復、変容の鍵です。

14)「私でない私」「自分によって縁を切られた私」に関して、このセミナーでは、(a)関係療法や、(b)シャーマンの「魂の回復(soul retrieval )」の視座を参考にします。魂の回復とは、切り離されたり、見失われたり、疎外されたりした魂(の一部)を取り戻す、シャーマンの伝統的技法です。それをそのまま使うことはできませんが、その視座や技法の一部は、とても有益です。(注:なぜそのまま使うことが推奨されないかについて、セミナーでお伝えします)

15)今回、過剰適応からの回復や癒し、変容について取り組みます。そのためには、自分によって無意識裡に切り離された本当の自分を回復すること、縁を切られた自分との関係を取り戻すことが欠かせません。そこで必要となるのは、周囲や人の顔色といった「外側」だけでなく、心の「内側」に目を向けること、また「関係」に着目することです。

16)これが的確な形で進むと、過剰適応していた人は、本当の自分を取り戻し、人生の手綱(たずな)を握ることができるようになります。エネルギー、自信、確かさのある、実の詰まった等身大の自分を育成していくことが可能になります。

このセミナーでは、切り離された自己と過剰適応からの癒し、回復、変容にご関心のある心理カウンセラー、ケースワーカーなどの援助職や、専門家の方および一般の方、初心者の方、そしてあなたのご参加をお待ちしています。

このテーマで悩み、苦しみ、課題を抱えている人は少なくありません。コーチ、コンサルタント、アドバイザーなどの専門家にも学んでいただきたい内容です。

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日時■ 2020年8月23日(日)10:00~17:00

会場■ zoomオンライン会議(お申込みいただいた方に詳細をお伝えします)

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子