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リレーショナル(関係志向の)交渉術

◎ 2020年9月10日(木)〜 全10回 オンライン開催
◎ 配布資料+音声データをご購入いただけます

1)ハーバード大学国際政治学教授、サミュエル・ハンチントンは、1993年に著書『文明の衝突』で「文明の違いは基本的に克服できない」と断言しました。ハンチントンの意味する文明とは、「西欧圏」「ロシア圏」「中東圏」「日本圏」をはじめとする、計8つを指します。文明の違い、文化の壁は乗り越えられない、と言い切ったのです。(注:不思議なことに、日本だけ、一国のみで独立した文明圏として取り扱われています)

2)ハンチントンの議論は、世界中で大変な議論を巻き起こしました。賛否両論ありましたが、「そんなことないだろう」と否定する側が優勢でした。世界は、まだ国連、WHO、ヨーロッパ(EU)統合に、希望を抱き、また抱くことができていたからです。

3)2003年には、長年敵対関係にあったフランスのポストモダン哲学者J.デリダと、ドイツのフランクフルト学派哲学者、J.ハーバーマスとによる画期的な共同声明がありました。

「ヨーロッパとは、何世紀もの間、都市と国家との抗争、教会権力と世俗権力との抗争、信仰と知との競合、政治権力間または対立する階級間の闘争によって、他のいかなる文化よりも激しく引き裂かれてきた。

この文化圏において、異なるもの同士がどのようにコミュニケートし合うのか、対立しあうものたちがどのように協力関係に入るのか、さまざまな緊張関係がどうしたら緩和安定させられるかを、多くの苦しみから、学ばなければならなかった。

さまざまな差異を承認すること、他者をその他者性/独自性において相互に承認することは、我々に共通するアイデンティティのメルクマール(目印)となる。」

4)現在、自国ファースト、自文化中心主義が世界を席巻しています。国連、WHO、デリダやハーバーマスではなく、ハンチントンの予言が、正しかった様相を呈しています。あなたは、文明の衝突は克服できると思いますか?それとも、文化間の違いは乗り越えられない、と考えますか?

5)文明や文化の衝突と取り組む専門領域に「交渉術(negotiation)」「調停(mediation)」「葛藤解決(conflict resolution)」があります。この連続講座は、この3分野を参照したものです。

6)今日、あらゆる分野、業種、領域で、協働(collabolation)や連携(cooperation)が必須となっています。異分野、異業種をつなぐには、「交渉」や「対話」の技術について、しっかりと学び、身に着ける必要があります。

7)この点がおろそかだと、協働、連携は難しい。結果、意図していないのに、孤立したりします。それを補うために、異なる分野を自分1人で初歩から学ぶ、ということをしたりします。しかし、これには限界があります。なぜなら、現代は、連携すべき新分野、新業種が、次から次へと半ば無尽蔵に新たに登場する時代だからです。

8)ここで大事なのは、新しい領域について学ぶこと。しかし、もっと重要なのは、「交渉」や「対話」のスキルです。交渉や対話によって、異分野、異業種とつながることが可能になり、あなたの仕事の範囲を広げることができるからです。

9)さて、現代交渉術とは、”win-win(ウィン-ウィン)”をベースとした、あるいはそれを志向する「ハーバード流交渉術」を指します。これは、ハーバードの法律の専門家R.フィッシャーと、文化人類学の専門家W.ユーリーとによって確立されました。後に、ユーリーは、個人の内面に入る方向へと、フィッシャーは、情緒をベースにした方向へと交渉術を深化/進化させていきます。フィッシャーは、ハーバードの心理学者、D.シャピロと一緒に、新しい交渉術を展開しています。

10)ここで夫婦のあり方から、考えてみましょう。夫と妻が衝突すること、誤解し合うこと、対立することは、あってはならないことでしょうか? 不健康なことでしょうか?

11)出身家族の異なる夫と妻は、異なる家族文化を背景に持っています。夫と妻の間で、文化的衝突が起きても不思議はありません。いや、生じるのが当たり前です。夫も妻も、別々の自己都合、損得勘定、打算、価値観を持っています。であれば、夫婦間の衝突、誤解、対立は自然で健康なことではないでしょうか?

それを認めたうえで、どうすれば夫婦間にウィン-ウィン関係を築くことができるのか? こうした点を、講座で取り組みます。

12)日本では、夫婦間で衝突、葛藤、対立が起きてはいけない、と長年思われてきたのではないでしょうか? なぜ、そう考えられてきたのでしょう? そこには無理があったのではないでしょうか? 特に、21世紀の現代においては。

13)夫婦間の衝突、葛藤、対立の隠ぺいは、アルコールをはじめとする依存症、共依存症、DVを生む家族、「絡み合い家族(enmeshed family)」や
「疎遠で冷たくシラケた家族(disengaged family)」に、しばしば見られます。夫婦間の衝突、葛藤、対立を扱うことで、夫婦に癒し、成長、発展、成熟がもたらさることでしょう。

14)この講座では、人と人の間、異分野や異業種の間、国と国との間、の衝突、葛藤、対立を自然なことと考えます。抑圧、解離、否認によって、衝突、葛藤、対立を表面から消し去ることはできます。しかし、水面下で潜伏し続け、悪化しかねません。

今回、衝突、葛藤、対立を顕在化させ、取り組むための技術の習得、および、そのための心理的力の活性化を目指します。人と人、国と国との間に衝突、葛藤、対立が起きることは、自然で不可避だからです。

15)「まあまあまあ」「今日のところはいいじゃないですか」「穏便に穏便に」。こうしたやり方は、問題の先送り、放置、遺棄になりかねません。心理学的に問題なのは、情突、葛藤、対立の先送り、放置、遺棄が、人に諦め、仕方がない、絶望の思いを強要したり、人の力を奪ったり、自尊感情を低めたり、ときに自死の思いを抱かせたりすることです。

16)ところで、「相談」とは「相」+「談」です。「相」は「互いに」を意味します。一方「談」の字は「言葉」+「火と火」「炎」からできています。言葉で炎が燃え上がる、すなわち衝突や葛藤、対立、そのものではないでしょうか。「談」とは、「言葉で、衝突、葛藤、対立する」ことといえます。

すると、「相談」とは「お互いに、言葉を通じて衝突、葛藤、対立すること」です。それを意識(conscious)的にやり抜く、あるいは納得する形で進める技術。これが、交渉術です。現代交渉術は、ウィン-ウィン交渉を基礎に置いています。

17)が、この現代の交渉術に欠けていたものがありました。何でしょうか?

2つあります。1つは、W.ユーリーが述べた、自分の「内面」での交渉です。自分の内面での交渉と、他者との交渉との間に「好循環」を築くことです。2つは、R.フィッシャーが試みている「情緒」を尊ぶ交渉です。

18)今回、私たちは、フィッシャーとD.シャピロが展開させている情緒を土台とした交渉術と取り組みます。日本では、紹介されていませんので、楽しみにしてください。また、ユーリーの内的交渉に関しても、適宜、お伝えします。

19)夫婦間、兄弟/姉妹間、親子間、友人間、恋人間、上司部下間のやり取りは、顕在化されたものだけでなく、潜在的また微細な衝突や葛藤、誤解やすれ違い、対立や矛盾に満ちています。この連続講座では、それらを意識化する方法、また取り組む技術について学びます。ハンチントン、デリダ、ハーバーマスが論じていないのは、ユーリーの内的交渉、およびフィッシャーやシャピロの情緒を尊ぶ交渉です。

18)私たちは、人と人とのコミュニケーション、やり取り、相互交流から、情緒を切り離しては意味がない、と考えています。交渉は、理性やロジックだけで進むわけではありません、いや進むことはほとんどありません。人と人、組織と組織、異業種間、国家間のコミュニケーションや、やり取りは、非合理的でロジックの通じない感情たっぷりのものが少なくありません。

情緒をベースとした、非合理的であったり、ロジックが通じない交渉を有益なものにするために、最新の心理療法の成果を、ふんだんに組み込みます。たとえば、投影および投影同一化、エナクトメント、転移とは逆転移、解離、コンテイニング、関係療法、システム論、IP、円環的因果論、コンステレーション、外在化などです。

19)難しそう、と感じますか?

大丈夫です。すべて、一から、基本からじっくり、ゆっくり、お伝えします。

20)現代ほど、交渉が必要とされている時代はありません。国家間、異業種間、組織の中、家族の中、夫婦の間で。また、ポストモダニズムが導入された各専門分野における専門家とクライエントとの間で。

21)交渉は、生きていく中で、何となく身に着けていくもの、あるいは、特殊なビジネスや政府機関にいる人にだけ必要なもの、人を出し抜くためのもの、などと、今でも誤解されていたりします。しかし、ハーバード大学やノースウエスタン大学をはじめとする欧米の一流大学や国連系研究機関などでは、現代に不可避の誰もが身に着けるべき技術と考えられています。

交渉は、心理療法、カウセリング、コーチング、コンサルティング、ケースワークといった分野で、必要とされ、かつ有益であるにもかかわらず、盲点になってきた領域です。今回、この領域について、基本から最先端までを、しっかりと
お伝えします。

この講座では、現代交渉術をさらに刷新した領域にご関心のある専門家の方、専門家を志している方、一般の方、初心者の方、そしてあなたの、この講座へのご参加を、お待ちしています。

心理セラピスト、カウンセラー、コーチだけでなく、ビジネス・オーナー、エグゼクティブ、医療関係者、司法、税務、金融、教育のプロ、不動産、福祉、NPO、社会活動/運動に携わっている人、アーティストやクリエーターの人にお勧めです。

毎回のテーマを、わかりやすく具体的に学ぶために、良質なケースをご用意してお待ちしています。

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日時■ 2020年9月10日(木)〜全10回 毎月第2木曜日 19:00~20:50

会場■ 初回はzoomオンライン会議にて開催いたします。第2回以降、状況に合わせ、zoomオンライン会議および東京都内会場の並行開催へと随時移行していく予定です。

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子