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家族のサステナビリティ

◎ 2020年8月7日(金)〜 全10回 オンライン開催
◎ 配布資料+音声データをご購入いただけます

1)家族のサステナビリティ(sustainability、持続可能性)についての連続講座です。

21世紀の現在、家族のサステナビリティに、何が必要でしょうか?
どうすれば専門家は、サステナブルなサポートを提供できるのでしょう?

2)家族の持続可能性のためには「雑食」と「混成」を通じた創造性が必要です。家族をサポートする専門家にとっては、家族システム論とポストモダンとの対話が求められます。これは、ソフト・スキルと超ソフト・スキルとのやり取りと言えます。

3)家族療法の最大の特徴は、「システム論」にあります。システム的思考とは、たとえば東洋医学なものの見方、を考えるとわかりやすいでしょう。

あなたがおなかの調子を崩したとき、西洋医学では胃や腸など、おなかを調べます。一方、東洋医学では、胃や腸、といった「部分」「臓器」だけをみることはしません。「体全体」のバランス、他の臓器との「関係」をみて、調子を整えることを目指します。

4)加えて、家族療法のシステム論では、「円環」に着目します。円環とは何でしょうか?

たとえば、息子が不登校になり、両親が精神的ストレスを感じていたとします。
この場合、息子の不登校が問題なのでしょうか?

実は、父と母の関係が悪く、そのストレスで息子が精神的ダメージを受け、学校に行けなくなった、のかもしれません。家族システム論では、その両方が正しい、あるいは両親のストレスと息子のストレスが巡り巡って(円環して)、悪循環に陥っている、と考えます。

5)このように家族システム論は、全体の関係と全体の円環の2側面からできています。これは、システムの1部分~たとえば息子、あるいは両親~を悪者に固定して考える、要素還元論への代替案です。

6)こうした見方や考え方は、「ソフト・スキル(ソフトな技術)」です。経営、法律、税務、金融といったサービスが、数字やエビデンスに基づいた「ハード・スキル」だとすれば、システム論は目に見えない構造を認識する「ソフト・スキル」です。

7)しかし1980年代、このシステム論(ソフト・スキル)の問題が、ポストモダンの観点から、指摘されるようになりました。その1つが、システムの中にいる家族と、その外からシステムを観る専門家との「分断」です。もう1つが、専門家と非専門家との関係に潜む「権力」や「格差」の問題です。

8)従来の個人療法や西洋医学において、専門家は、クライエントや患者から影響を受けることのない、客観的な科学者であるようにふるまってきました。それは、観察者(専門家)と被観察者(クライエントや患者)とが切り離された存在である、という近代科学の枠組みをモデルにしたものです。

しかし、心理療法やカウンセリング、コーチング、コンサルティングの「実践」において、専門家が客観的で中立な存在でいることは、絶対にありえません。

9)たとえば、男性のカウンセラーに対し、ある女性のクライエントは、自分を邪険に扱った父親と二重写しにして見ているかもしれません。カウンセラーの方では、無意識的とはいえ、心のどこかでクライエントを、自分を毛嫌いする娘に似ている、と感じているかもしれません。表面的には、客観的で中立なカウンセラーが、水面下では、「父親-娘」という間(共同)主観的関係にクライエントと共に加わっていたりするのです。

これは、「転移-逆転移」といわれる現象です。

10)深層心理学は、転移-逆転移が生じない対人援助関係はない、と明言します。転移-逆転移の次元では、セラピストは、観察される対象にもなります。セラピストは単に観察する科学者ではなく、自身も観察される側になることが不可避です。従来の観察者-非観察者が役割固定されたモデルは、破綻することになりました。

11)家族療法の実践でも、同様のことが生じます。家族を外から客観的に観察し、その家族システムのありようを把握していたはずの専門家が、気づかないうちに、家族のある役割を担わされてしまい、中立性を失っていた、ということが。

男性専門家に対して、たとえば、
娘は「ゲッ、おやじにそっくりなのが、もう1人増えた」、
父親は「まいったな、苦手な妻の父親と同じような奴だ」、
母親は「この人は、私が欲しかった理想の夫かも」
などと、無意識に思うかもしれません。

家族の各メンバーからこんなふうに見られて、カウンセラーは、深層次元で、家族システムに引きずり込まれていきます。それも、1つの役割だけでなく、娘にはおやじに、父親には義父に、母親には理想の夫に、というふうに、複数の役割が割り当てられたりします。

12)こうした中で、超人でなければ、客観性や中立性を保つことはできません。複雑怪奇なこうした現象が経験的に知られるようになり、家族システム論は、危機にさらされました。従来の家族療法は、専門家が(外から)認識した家族システムの問題とその処方を、クライエント・ファミリーに与え、取り組む、という姿勢のもとに行われていました。これは、近代科学者や医者の態度と同じです。

13)それに対して、ポストモダンの家族療法は、2つの問題を提起しました。1つめは、認識論の問題です。2つめは、セラピストとクライエントとの間に潜む権力の問題です。以下に述べます。

14)ポストモダン療法は、家族システムに対する専門家の認識と、クライエント家族が自分たちに対して持っている認識との間に、価値観の格差はない、という相対主義的立場をとっています。これに対して、従来の家族療法は、専門家による認識の方が優っている、と考えていました。ポストモダン療法は、専門家の認識と家族自身の認識とを提示し合い、対話、交渉、協働させて、新しい物語(ナラティブ、ストーリー)を紡いでいく、というスキルをベースにしています。

15)協働において問題になるのが、専門家と非専門家との間の権力や格差です。従来の個人療法や家族療法では、専門家と相談者の間に「分断」が生まれていました。この「間隙」に巧妙に入り込んでいたのが、「権力」の問題です。この権力は当然のもの、とされていたため見えにくく、巧みで微細な権力となっています。従来の対人援助モデルには、この権力を、専門家が乱用しかねない誘惑が潜んでいました。

16)権力や格差を見える化し、取り扱えなければ、専門家とクライエント家族との対話、交渉、協働は真にいい形で進まない、とポストモダン療法は考えます。権力や格差、そして認識論の問題と取り組める技術は、「超ソフト・スキル」です。

17)専門家は、システム論を学びソフト・スキルを磨くこと。と同時に、微細な権力、認識論や価値観の相対性、多様性に関する超ソフト・スキルを身に着けること。現代のクライエント家族を応援するには、この2側面を兼ね備えた専門性が必要です。

18)従来の家族システム論は、宝の山です。たとえば、ジェノグラム(家族図)、世代間境界、世代間連鎖といった視座。あるいは、解離(disengaged)家族や絡み合い(enmeshed)家族といった見方。多方向への肩入れやジョイニングといった介入法。この講座では、こうしたソフト・スキルについて学びます。

19)そしてポストモダン療法には、ナラティブ・セラピー、リフレクティング・プロセス、コラボレイティブ・アプローチ、間主観的療法、解釈学的療法などがあります。これらのポストモダン療法を学ぶうえで、以下の超ソフト・スキルを参照します。

(A)ソクラテス-プラトン間の弁証法的対話
(B)ハーバード流交渉術
(C)M. フーコーの権力論

20)人類の歴史が示すように、ダイバーシティ(多様性)を受け入れた組織、文化、国家がサステナブルです。C. ダーウインが述べたように、想定外の環境変化に適用できた種は、生き残ることができます。

多様なものを食べ、新たな環境に適応するメタファーとして象徴的な生き物に、「鯉」がいます。私たちは、外来種の「鯉」のように、雑食(ハイブリッド)し、想定外の出来事に適応して永続できるように、家族を応援してきました。

21)21世紀の現在、ダイバーシティやグローバリゼーションとの関係なしに生きていくことはできません。現代の環境変化に対して、サステナブルであるために、家族はどう適応していくのか? 雑食と、混成の中からの創造過程(becoming)が欠かせません。

21)この講座では、従来のシステムとポストモダンの対話、ソフト・スキルと超ソフト・スキルとの総合から、家族のサステナビリティについて取り組みます。テーマをわかりやすく具体的に学ぶために、毎回、良質なケースをご用意しています。

22)ポストモダンの影響は、家族療法の領域に加えて、コーチング、ボディワーク、ケースワーク、さらには、経営、法律、金融、税務の分野にも及んでいます。多様な専門領域から家族のサポートが試みられています。

この連続講座は、業際・学際的なものでもあります。家族のサステナビリティにご関心のある専門家の方、専門家を志している方、一般の方、初心者の方、そしてあなたのご参加を、お待ちしています。

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日時■ 2020年8月7日(金)〜全10回 毎月第1金曜日 19:00~20:50

会場■ 初回はzoomオンライン会議にて開催いたします。第2回以降、状況に合わせ、zoomオンライン会議および東京都内会場の並行開催へと随時移行していく予定です。

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子