専門家を目指す方のよくあるご質問

目次

セラピストを目指すことについて (5)

70代でも80代でも遅いとは思いません。

富士見が学んだ大学院(米国トランスパーソナル心理学研究所)のクラスの平均年齢は、49歳で、最高齢の方は74歳の女性でした。

アメリカでは、中高年が、より自分に合った仕事に就くために、プロフェショナル・スクール(高度専門職向けの大学院)に、入学することがよくあります。また、臨床心理学系の大学院では、大学出の若い人よりも、中高年の方が多い場合がままあります。

いくつになっても、遅いことはないと思います。

焦る必要はありません。なぜなら、腕を磨くためには、大学や大学院で学ぶことができる「学問」的側面だけでなく、「職人」「アーティスト」的側面が必要であり、そこに年齢は関係ないからです。

「職人」「アーティスト」的側面には、人生(の紆余曲折、失敗、挫折)が反映されます。実践や場数がものを言う、ということです(紆余曲折、失敗、挫折が、癒えていて心の糧になっていることが前提です)。

大学や大学院にまず行って、職人&アーティスト的セラピストにになるべく、実践、場数とその背後にある人生経験を積むのか?

あるいは、紆余曲折、失敗、挫折といった人生経験を先に積み、その後でセラピーについて大学、大学院で学ぶのか?

どちらの方法も、いいと思います。

人生の紆余曲折、挫折、失敗、傷つき、混乱が、セラピストになるための、またセラピストとしてやっていくうえでの糧、そして、肥やしになります。

セラピスト、カウンセラー、コーチは、人生のさまざまな経験が、そのまま丸ごと役立つ仕事です。ただし、挫折、失敗、傷つきは、癒えていなければなりません。

挫折、失敗、傷つきから回復し、それらの体験を活用するために、まずは、セラピーを受けることを考えてください。

C.G.ユングが大切にしたセラピストイメージに、「傷ついた癒し手(wounded healer)」があります。それは傷を負った人が癒え、回復した姿を表すイメージです。ユングは、傷ついた癒し手こそが、当事者意識をもった真の癒し手(ヒーラー)になり得る、と考えました。

たとえば、元依存症の人こそが、現依存症の人のよき支援者となれます。あなたのクライエント体験、そこからの回復過程は、良質なセラピスト、カウンセラー、コーチになる上で、またとないリソース(資源)となるでしょう。

どの分野でも一人前になるには、10,000時間の経験が必要です(プロフェッショナルとは)。
合理的観点から考えてみましょう。

大学教員の主な仕事には、研究、教育、会議、事務、学会の5つがあります。すると、臨床に費やす時間は、週に5~10時間が精一杯です。1週間に5時間(セッション)の臨床をすると、1か月では5時間×4週=20時間、1年では20時間×12か月=240時間(セッション)です。

大学教員として、10,000時間の臨床経験を積むには、41年かかります。その倍の10時間の臨床を毎週行ったとすると、10,000時間に達するまでに20.5年です。

一方、腕1本で食べられるプロのセラピストを目指す人が、1日に6時間、週に5日、それを12か月間続けると、年に1,440時間。10,000時間の経験を積むのにかかるのは7年弱です。夏休みなどを考慮して2か月休むと、年に1,200時間。10,000時間に達するまでには、8.3年です。

開業のセラピストがが、その後も引き続き、日に6時間、週に5日、年に10か月の臨床を、10年、20年と積み重ねていったなら、数万時間の臨床経験をすることになります。腕が良くならないわけはありません。

セラピストの腕の良さは、頭の良さ、いい論文や書籍の数、有名かどうかなどとは関係がありません。セラピー、カウンセリグ、コーチングは、職人的力およびアーティスト的創造力があるかどうかが、ものを言う職業です。

以上は、臨床実践の時間数からみた合理的見解です。
あなたの問いを考えるヒントにしてください。

臨床のトレーニングについて (5)

現場で臨床経験を積むことが1番です。

スーパーヴィジョンや教育分析を受けることも大切です。
事例検討会への継続的に参加も必要です。

そして、良質なケース(事例・症例報告)を熟読してください。
IPPでは、多様な中身の濃い事例を、毎月のセミナー連続講座でご紹介しています。

ボランティアで経験を積むことが可能です。 ボランティアから進めては、いかがでしょうか?富士見も、ボランティアから始めました。

ただし、開業を目指したい方に、覚えておいていただきたい点があります。それは、開業は、ボランティアとも、スクール・カウンセリング、クリニックでの仕事、学生相談とも違うということです。なぜなら、開業心理療法では、金銭の直接的やり取りが伴うからです。この点を踏まえて、経験を積んでください。

現場での経験とは別に、いまから良質なケース(事例・症例)報告を、たくさん熟読してください。

腕を良くするインスタントなやり方はありません。いいセラピストになるには、植物の成長のように、長期間を必要とします。

腕を身に着けると、そのあと長きにわたって継続可能になる心の仕事が、開業心理療法や開業コーチングです。退職後、健康に気をつければ、20年以上やれる個人事業です。開業に決められた定年はありません。焦らず、慌てず、腰を据えてじっくりとプロとしての力を身に着けていってはいかがでしょうか?

じっくりと歩み始める最初の一歩として、あるいは、腕を磨き続けるために、セラピスト養成コースへのご参加もご検討ください。

良質なセラピストやコーチは、その両方を身に着けています。職人にもアーティストにも “art(アート)” の英単語が絡んでいます。“art” は、「芸術」の他に「技術」を意味します。“art” は、「技芸」です。「技芸」のうちの「技」を「職人」が、「芸」を「アーティスト」が担うと考えてください。

ただし、この2つは明確に分別できるものではありません。腕のいいセラピストは、この2つを同時に持っています。この2つは循環しています。セラピー、カウンセリング、コーチングのトレーニングの初期においては、職人技を身に着けるべく努力することになります。10年あるいは10,000時間(セッション)は、必要でしょう。その後も、剣士が毎日素振りをするように、野球の選手がキャッチボールをするように、生涯にわたって職人技を磨く必要があります。

が、それだけでは足りません。職人として型どおり学んだことを破って、オリジナルな技を身につけなければなりません。アーティストになり必要があります。その過程を「守破離」といいます。さらに、セラピーの現場においては、常々、ジャズの「即興(improvisation)」が求められます。なぜなら、セラピーで生じるプロセスの中には、常に「想定外」が含まれ、それに対応するには、プロのクリエイティブでアーティスティックな「技芸」あるいは「即興」が必要となるからです。

その即興性は、クライエントがそれまで苦悩してきた枠組みをリフレームしたり、リノベートすることにつながるからです。リフレームやリノベートは、心の癒し、回復、成長、変容、成熟にとって最良の介入の1つです。即興、クリエイティビティ、アートは、セラピスト1人で起こせるわけではなく、クライエントとの協働、また人間を超えた共時性の恩寵とがあってこそ可能になります。

このプロセス全体に目配せし、そこに参与するのが、職人でありアーティストである経験を積んだセラピストです。

「心(ハート)」です。

プロフェッショナルに、「技術」や「アート」は欠かせません。
が、それと同じかそれ以上に大切なのは「心」です。

「ものごとはね、『心』で見ないとよく見えない。大事なことは肉眼には見えないんだよ」
サン・テグジュペリ著『星の王子様』に登場するキツネのセリフです。

シャーマンについて描いたカルロス・カスタネダの一連の著作で、ヤキ・インディアンの呪術師ドン・ファン・マトゥスは、「心(ハート)のある道(path with the heart)」こそ、大切な生き方だと述べました。

元型的心理学提唱者のジェームズ・ヒルマンは、イスラーム神秘主義を参照し、「心(ハート)」からマクロ・コスモス(外の世界)とマイクロ・コスモス(内の世界)を見ることが、「魂作り(soul-making)」になるといいます。

精神分析の開祖、ジンクムント・フロイトは、人生にとって大切なのは、「仕事」と「愛」だと伝えています。

「愛」や「心」を大切に、セラピスト、カウンセラー、コーチを目指してはいかがでしょうか?

開業について (6)

はい、その側面があります。

実を言えば、セラピストやカウンセラーの中には、「ビジネス(business / 商業、商売、事業)」や「ビジネス・パーソン(business person / 商人)」という言葉に汚らわしさを感じて、嫌う人が少なくありません。

しかし、考えてみてください。すべてのビジネスが汚いわけでも、悪いわけでもありません。例えば、誰もが知っているような大企業、トヨタ自動車や伊那食品工業の名前を聞いて、汚いビジネスをしていると、感じるでしょうか?

フロイトもユングも、開業セラピストでした。フロイトは、精神分析を通じての「生計」にとても意識的(conscious)でした。生計であれば、真剣で真摯で誠実にならずにはいられません。セラピーにコミットしないことはできません。

開業以外のセラピーには、ビジネス的側面は希薄です。それが、開業とその他 ~教育、産業、医療、福祉、司法など~ の領域との質的相違です。私たちは、優劣を問題にしたいわけではありません。そうではなく、仕事をする文脈(コンテキスト)を問題にしています。

開業においては、セラピストの腕が商品です。開業セラピストには、商品の質をよくする強制力が、常にかかります。この強制力と上手につき合い、心や認知を研磨し続けることが大切です。商売は、顧客の利益や幸福を大切にしなければ、中長期的に継続することはできません。事業主が自己愛的、利己的では、短期間であればうまくやれても、中長期にわたって成功することはできません。

必要です。腕の良さだけでは開業はうまくいきません。

ビジネスがうまくいかないと、廃業することになりかねません。そこで困るのが、セラピストやコーチ本人だけでなく、クライエント(顧客)です。開業セラピーに来るクライエントの人は、じっくり、ゆっくり、ていねいに自分の問題、悩み、症状と取り組みたい方が少なくありません。もし、セラピストが廃業してしまったなら、クライエントの人に、迷惑をかけることになるでしょう。

ですので、開業心理療法家は、自分のためだけでなくクライエントの人のためにも、ビジネス(事業)としての心理療法を、成功させる必要があります。その時に大切になるのが、ビジネス・マインドやマーケティング(集客)・スキルです。

秘訣はたくさんあります。1つ挙げると、「消費者」と「顧客」とを選別することです。

「消費者(consumer / コンシューマー)」の原形である “consume” は、「使い果たす、破壊する、喰い尽くす」と訳されます。「消費者」とは、英単語の意味からすると、セラピストやコーチを喰い尽くし、破壊しかねない人のことです。

一方、「顧客(customer / カスタマー)」の原形である “custome” は、「習慣」を意味します。 「顧客」とは「習慣的・定期的に来てくれる顧客」を意味するといえます。

開業心理療法は、心理療法家と「顧客」との関係から成り立つ事業です。「消費者」をクライエントとするものではないことを覚えておいてください。

ピーター・ドラッガーは、マーケティグは「顧客創造(customer creation)」だと述べました。それには、顧客が来るのを待つのではなく、創造というクリエイティブな作業が伴うといいます。あなたは、「顧客」の創造にご関心がありますか?

「開業カウンセリング成功の秘訣」では、私たちが30年かけて体得してきたことのエッセンスを、凝縮してお伝えします。

大事なのは、誰の中にも「消費者」と「顧客」とが居ることへの理解です。

開業心理療法では、誰の心にもある「顧客」に向けてセラピーを行います。トレーニングを受けていない開業セラピストは、誰の中にもある「消費者」的側面を無自覚に刺激し、肥大化させ、リピーターになる可能性を失くしてしまいます。

「開業カウンセリング成功の秘訣」では、心の中の「顧客」的側面とチームを組み、セラピーやコーチングを進める方法について、ご説明しています。

マーケティングで重要なのは、次の3点を把握して集客の仕組みを作ることです。

・顧客のニーズ(needs / 欲求)
・顧客のウォンツ(wants / 手段)
・提供する商品やサービスのシーズ(seeds / 種、潜在可能性)

スクールカウンセリング、クリニックでのセラピー、学生相談などでは、セラピストとしての臨床力があれば、十分です。そこでは、セラピストに代わって、学校、医院、大学がマーケティングをします。

しかし、開業心理療法や開業コーチングの場合は、集客を自分でしなければなりません。だからこそ、マーケティング・スキルを身につける必要があります。

いいえ、臨床力、現場力が最も大切です。

臨床力がなければ、クライエントの人に力の無さを見透かされ、リピートされることがなくなるでしょう。それでは、開業は成り立ちません。