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分化と自己実現の心理療法|2019/06/30(日)

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1)「僕は、僕の<内部からひとりでに出てこようとするもの>だけを、生きてみようとしたにすぎない・・・それがなぜ、あれほど難しかったのだろうか。<運命>とはどこかよそからやってくるものではなく、自分の心の中で成長するものである」
これは、ヘルマン・ヘッセ著『デミアン』の中の言葉です。

2)ヘッセは、内部からひとりでに出てこようとする潜在可能性を、「運命」と呼びました。そして、この自分の内部から出てこようとする「潜在可能性を、最大限実現すること」を、アブラハム・マズローは「自己実現」と呼びました。

ヘッセが「運命」と述べた、内側から自(おの)ずと出てこようとするもの。これは、自我が想定したものでなく、コントロールのきかない、自分ではどうにもならない時に恐ろしく、時に気味の悪い、が、強烈に引きつけられる「内なる他者」です。

この内なる他者を、ユング心理学では「魂(アニマ・アニムス)」と呼びます。

3)フロイト派の女性分析家、カレン・ホーナイは、自己実現を「真の自己が成長発展する過程」と説明しています。D.W.ウィニコットや土居健郎にも、真の自己とその発達過程への、同様の眼差しがあります。内部からひとりでに出てこようとする、自律的・自発的潜在可能性は、東洋の自然(じねん)であり、タオ(Tao)に当たります。

4)〈分化〉とは、成長・発達や個性化にとって、不可欠なプロセスです。

この〈分化〉のプロセスと〈自己実現)の過程。

今回のセミナーは、この2つを重ね合わせ、潜在可能性、運命、魂、真の自己、タオが心の中で自ずと成長する過程、ヘッセが示唆した「生きてみようとする過程」について、学ぶものです。

これは、自己実現から自己超越を唱えたマズローの段階説、精神分析の男性中心的な部分を批判し、フェミニズムに影響を与えた、ホーナイのいう自己実現のプロセス、そして、ユングの個性化のプロセスに該当します。

5)潜在可能性、運命、魂、真の自己を、自分の心の中で成長させるには、どうすればいいでしょうか?

ヘッセは言います。

「忘れてはいけない。偉大な人間になって何か立派なことを成し遂げようと思ったら、多くのことを断念できなくてはならないということを」と。

潜在可能性、運命、魂、真の自己の成長には、「断念、分化、分離」が欠かせません。

ユング派の河合隼雄氏は、「魂にメスはいらない」とかつて述べましたが、私たちは、「魂にはメスが必要で、メスがあってこそ、断念、分化、分離が可能になる」と考えます。

6)ヘッセが意味した、偉大な人間がする立派なこととは、潜在可能性、運命、魂、真の自己を内面で成長させることです。(決して、社会的・外的に偉大で立派な人間を目指すものではありません)

これに必要なのは、心に卵を作ることです。

ヘッセは続けます。

「卵から生まれるとき、鳥は無理やり出ようとする。卵とは世界である。生まれ出ようとする者は、一つの世界を破壊しなければならない」と。

自己実現のために、破壊しなければならない一つの世界とは、あなたにとって、どんな世界でしょうか? イメージできますか?

卵から生まれることは、グリム童話「カエルの王子さま」に登場するカエルが王子様に変容すること。また、青虫が蛹(さなぎ)になり、蛹が蝶になることです。が、それにはまず、機が熟すまで、心の中で卵を温めなければなりません。

7)あなたは、「啐啄(そったく)同時」という言葉をご存知ですか?

鳥の雛(ひな)が卵から産まれ出ようとするとき、殻の中から卵の殻をつついて音をたてます。これを「啐(そつ)」と言います。そのとき、すかさず親鳥が外から殻をついばんで破る、これを「啄(たく)」と言います。「啐」と「啄」が同時に生じてはじめて、殻が破れて雛が生まれます。

ホーナイは、心理療法を自己実現(=真の自己が成長する)過程のサポート、と考えました。これには、雛と親鳥、クライエントとセラピストの協働作業、関係療法が不可欠です。

内面に卵を作るために。
卵を温めるために。
卵の殻を破るために。

8)自己実現は、ユングの個性化(individuation)過程に当たります。ユングの個性化は、人生の後半を中心としたものです。

これに対し、人生前半の自己実現には、マーガレット・マーラーの分離-個性化(separation-individuation)過程が参考になります。分離-個性化は、永遠の少年・少女が目指す「幻想上の誇大自己」から、健康な自我を分離・分化し、抽出するプロセスを後押しします。

9)健康な自我とは、等身大の自己・身の丈の自分を指しますが、健康な自我があってこそ、無理のない形での魂、運命、真の自己の実現が可能になるでしょう。

自己実現には、健康な等身大の自我形成が欠かせません。

10)さて、魂、運命、真の自己は、内界に潜在する植物の種のようなものです。内なる種の発芽、成長、開花のプロセスについて、このセミナーでは取り組みます。それには、環境への眼差しが欠かせません。

環境は、ある植物にとっては、南国の高温多湿がよく、別の植物にとっては、気温が低く雨の少ないドライなものがよかったりします。生存戦略上、他の植物が絶対に回避する厳しい環境を選択する種もいます。

自己実現や個性化は、極めてオリジナルなものですが、それには、魂、運、真の自己(=種)と共に、それらが開花するための環境の多様性、独自性を見極めること、承認し、尊重することが必要です。

11)ユングは、自己実現や個性化を、「全体性へと向かう過程」と考えました。全体性は、(A)自分と、(B)自分にとって想定外の、時に恐ろしく、時に引きつけられる魂、運命、真の自己、タオの総合からなります。

さて、ユングの自己実現は、健康な中年男性をモデルにしたものでした。
そこには、女性やLGBTや高齢者や障碍者の自己実現が欠けていました。

当時想定されていなかったほど後期高齢者が増えた先進国における、自己実現とは、いったいどういったものでしょうか?

ユング心理学には、一部ですが、女性や障碍者の自己実現についての考察があります。

このセミナーでは、あらゆる角度から、多面・多次元的に、自己実現について取り組みます。令和における自己実現の可能性について、分化、分離との関連で、考えていきます。

今回、「分化と自己実現の心理療法」について、専門家、一般の人、初心者のあなたに、わかりやすく、かみ砕いてお伝えします。良質な事例と(簡単な)体験的エクササイズを通じて、セミナーを進めていきます。

あなたのご参加を、お待ちしています。

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日時 ■ 2019年6月30日(日) 10:00~17:00

会場 ■ 都内(お申込みいただいた方に詳細をお伝えします)

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子