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1)タイトルにある「イネブられた」は、私たちの造語です。「イネイブラー(enabler)」という、依存症の支え手を示す用語と、「舐める」「しゃぶる」を意味する「ねぶる」という言葉を組み合わせるところから、生まれました。
イネブる親は、子どもが幼いころから、たとえばこんなふうに言います。
「ダメよ、そんなバカなことしちゃ、いけません!」
「ママのいい子は、こんなことしないわよね」
「あらあら、ダメねえ、こうしなさい!」
学校に上がるころには、こんなふうにイネブります。
「どうしてこんなこともわからないのか!」
「次のテストは、100点じゃなきゃダメよ!」
「どうせおまえはできないんだから、いいからかしなさい!」
「イネブられた子どもたち」は、こうして、自分固有の「練習」もさせてもらえなければ、ましてや「失敗」をすることなど、決して許されませんでした。
2)イネイブラーは、「共依存者」です。アルコールやギャンブルなどの依存者の傍らで、一見、相手を助けるかのように存在しています。しかしその実、相手を自分に依存させ、依存症を慢性化、長引かせ、自分がいなくては生きていけないように、巧妙に相手を骨抜きにする隠された「コントロール(支配、操作)欲求」をもっています。
にもかかわらず、同時に、相手を軽蔑し、見下し、恨み、つらみ、憎み、憤(いきどお)り、バカにしています。
イネイブラーは、依存症者の一見被害者です。
が、同時に、依存症の協力者であり、加害者、共謀者、共犯者です。
3)「ねぶる」ところから共依存に陥っている「(未成熟な)親」と「子ども」との関係に着目するのが、今回のテーマです。「イネブル親」と「イネブられる子ども」からなる関係とは、どういったものでしょうか?
たとえば、「金」を請求する子どもに、その都度、金を渡す親がいたとします。お金をとられるのはキツイ、やめたいと思います。しかし、それは心を贈る、心を使うことより、実はずっと楽です。すると、子どもは短期的満足を得ます。が、中長期的には骨抜きになります。子どもは、早晩、親(の援助)無しではやっていけなくなり、親に依存し、支配、操作されることになります。
親は、金を渡しながら、「いつか、親の気持ちをわかってくれる」という甘い期待を抱くかもしれません。が、子どもの心を腑抜けにし、根腐れさせていることに目が向きません。期待しても、心を贈らず金を渡し続けるなら、子どもの骨抜きに、加担することになるだけなのに。
こういった親子関係から、家庭内暴力が生じることは、少なくありません。
その子どもは、「イネぶられた子ども」です。
4)ここでいう「金」は、物理的なものに限りません。「エリート(優秀)意識」「甘ったれ」「傲慢さ」のミックス(混合)からなる、心の無い「自己愛構造体」も指します。(未成熟な)親が、子どもの心を腑抜けにし、その代わりに、金ピカの自己愛構造体を与えます。
それを贈られ、コントロールされた子どもは、表面上イケてるように見えます。
が、金や自己愛構造体という砂糖漬けによって、心の中身は根腐れします。
それが「イネぶられた子ども」(の内実)です。
5)私たちは、ファミリービジネス(ファミリー会社)支援を行っていますが、「イネブル親」と「イネブられる子ども」の関係で苦しんでいる家族は少なくありません。が、それはファミリービジネスに限りません。あちらこちらで見られます。
6)ここで、マーガレット・マーラーの発達論から、考えます。彼女は、生後9~14か月間を「練習期(practicing)」と命名しました。それは、子ども(乳幼児)が、身体の飛躍的成長を遂げ、2足(独立)歩行できるようになる時期です。独歩できるようになった子どもは、養育者から離れ近くを動き回って探索、冒険します。
が、離れたかと思うと安心、安全を求めて養育者の下に戻って来ます。安心感とエネルギーとを補給してくれる「安全基地(=養育者)」が、必要だからです。その安全基地が、適度な質の良さを維持していると、子どもは養育者から離れ「近くの世界との浮気(=探索、冒険)」を経験できます。養育者を依存基盤としながら、外界へ能動的に関わることをするのです。
探索や冒険を繰り返し、子どもは練習期を味わい、謳歌し、経過していきます。
すると、心の内界で、健康な自己(イメージ)が分化し/出来始めます。
7)子どものその過程を応援できる母性が、「健康な母性」です。このころの子どもにとって、父親にも母親にも必要な、健康な養育者の性質です。それは、「行動失敗許容力」を持っています。
子どもの健康な成長や自律/自立には、子どもが依存している自分(=養育者)から離れて、自分以外の「近くの世界」と「浮気すること」、また、心の内面で(自分/養育者のそれとは異なる)自己イメージが育ち始めるのを『許容する力』です。(注:「母性」は、母親だけでなく父親にも、また、出産経験のない女性、男性にも、潜在しています)
8)行動失敗許容力の無い(未成熟な)母性の下で、子どもは「練習期」を『はく奪』されます。
すると、失敗できません。
行動を自由に起こせません。
「練習期」という心の成長発達に必要な『舞台』を失っているからです。舞台が無いと、チャレンジできません。練習できません。
9)その結果、成功だけを希求します。失敗、間違い、あやまちの無い完璧、優秀/優等、理想だけを良しとします。
練習期は、「依存可能な安全基地と、周囲の世界との浮気、探索、冒険」からできていました。それがないということは、金ピカでイケてる「自己愛構造体」を持つことにならざるを得ません。失敗すると、何よりも辛い『恥トラウマ』を、負うからです。
それが痛すぎて、子どもは行動を起こさなくなり、引きこもりになるかもしれません。
10)自己愛構造体は、ドナルド・ウィニコットのいう「偽りの自己」です。そこには、「過酷な超自我」という未成熟な母性フィギュアが絡みついています。それは、たびたび恐ろしい魔女イメージで象徴されます。なぜなら、魔女は「練習期」を憎み、羨望し、破壊したい貪欲さに、まみれているからです。
未成熟な母性フィギュアは、子どもが、心の内界で自己を分化/育成しない限り、カワイガリます。子どもが自分の一部である限り、傘下にある限り、OKです。このフィギュアのもとで、子どもは偽りの自己から「本当の自己」へと成長を遂げることができません。
11)自己愛構造体の内実は、練習期を喪失し、チャレンジや失敗を奪われた、貧困で荒廃した空虚な状態です。行動を禁じられ、チャレンジしたり、失敗したりしたことがないので、回復(レジリエンス)経験が(少)なく、自信やサバイバル能力がありません。
それが、「イネぶられた子ども」(の内面)です。
劣等感、不安、恐れをいつも抱えています。
12)その子どもは、将来、自己愛性パーソナリティ障害の痛みに苦しみかねません。子どもを思い通りに、自分の一部、傘下に置く毒魔女は自己愛障害ですが、子どもも自己愛障害をわずらうでしょう。世代間連鎖です。
13)ちなみに、日本には、失敗、間違い、誤りを過度に恐れ避ける「隠れ自己愛」や隠れ自己愛を内包した「過剰適応障害」「アダルト・チルドレン」が少なくありません。それには、今回のセミナーのテーマである、練習期と失敗のはく奪が、関係しています。
14)さて『先の先を読む思考法』の著者で、投資運用家の藤野英人氏が、グローバル・インド・インターナショナル・スクール(GIIS)というインド系エリート校を視察したときのこと。
「Make Mistakes(たくさん失敗しなさい)」と書かれたポスターが、壁に貼られていたと言います。「失敗を気にするな、ドンマイ」でもなく、「失敗から学びなさい」でもありません。
『たくさん失敗すること!』
それが、目的であり、手段だといいます。
「Make Mistakes」の背景にあるのは、失敗を奨励する、というよりも「失敗していないのは良くない」というメッセージだ、と藤野氏は言います。むしろMistakeしていることが、「新しいこと、難しいことをしている証」なのだ、と。
15)が、それを可能にするには、「練習期」への眼差しが欠かせません。
練習期を「取り戻すこと」。
「豊穣な」練習期を耕し、育成すること。
それには、過酷な超自我、毒親/魔女、練習や行動や失敗に伴う「恥トラウマ」などと取り組むことが求められます。
16)このセミナでは、子どもの成長、独立を願って、子どもが依存している自分(=養育者)から離れて「近くの世界と浮気すること」あるいは「Make Mistakes(たくさん失敗しなさい)」の実践と、心の内面で(自分/養育者と異なる)自己イメージが育ち始めるのを『許容する力』とについて取り上げます。
17)1番の問題は、失敗「しない/できない」ことです。「失敗経験」の「無い/少ない」ことです。それでは、現場で使える実践力、行動力、臨床力は身に着きません。
このセミナーでは、「イネブられた子どもたち」の回復と成長~奪われた「失敗」と「練習期」を取り戻す~をテーマとします。
18)あなたのクライエントには、「練習期」と「失敗」とをはく奪され、苦しんでいる人はいませんか?
あなたの心には、「練習期」を味わい、謳歌し、「経験から学ぶ」欲求はありませんか?
もし、”Yes”であれば、今回私たちとご一緒に、このテーマとぜひ取り組みませんか?
良質でわかりやすい具体的ケースをご用意して、あなたとご一緒に学びます。
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日時■ 2022年6月19日(日)10:00~17:00
会場■ zoomオンライン会議(お申込みいただいた方に詳細をお伝えします)
費用■ メールマガジンにてご案内しております。
講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子