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投げ込まれた『影』、取り入れた『影』~ 投影&取り入れ同一化と脱同一化 ~|2022/05/29(日)

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1)セミナーではこれまで、「投影同一化(projective identification)」について何度か取り上げてきました。困難な現場でのセラピー実践に、不可欠な概念だからです。しかし、「投影同一化」は「取り入れ同一化」とセットで理解して、はじめて合点がいきます。あなたは「取り入れ同一化(introjective identification)」について、聞いたことがありますか?

投影同一化と取り入れ同一化とは、2つで「ワンセット」です。クライエントの現代的悩み、訴え、症状、問題は、その2つの間を循環しながら、展開します。過剰適応、解離、DV(ドメスティック・バイオレンス)、摂食障害、強迫性障害、共依存、恋愛依存、セックス依存、ゲーム依存、心身症、などに取り組もうと思えば、その2つの「関係」と「循環」とに目を向け、取り組むことが欠かせません。

2)「投影同一化」とは、「自分の『影』を相手に『投』げて、それを相手のものとして『同一化(同定)』すること」です。本来は自分のもの(影)だったのですから、いわば多大なる勘違い、押しつけです。しかし投げた当の本人は、影なので気づきがありません。

ところが投げ込まれた側は、相手の投影物(「投げ込まれた影」)の「取り入れ」「丸呑み」「体内化」を強要されます。さらにひどいことには、投げ込まれた影に(内側から)コントロールされ、知らぬ間にそれに同一化し、それと同じように考えたり、感じたり、振る舞っていたりします。

これが、「取り入れ同一化」です。正確には、「否定的」な取り入れ同一化です。それは(単なる)「影」に過ぎないにもかかわらず、力をもち、人を支配します。「投影同一化」から「取り入れ同一化」への展開、循環は、無意識のうちに進みます。

3)この一連のプロセスを回避することは、簡単ではありません。クライエントとセラピストとの間で、「投影同一化」と「取り入れ同一化」とのやり取り/交流は、実はしょっちゅう生じています。難しいセラピーではもちろん、多くのカウンセリング、コーチング、コンサルティングでも、気づかれていませんが同じようなことが(ほぼ間違いなく)起きています。知らぬ間に。水面下で。

4)現代の心の問題と取り組むうえで必要とされるのは、クライエントの(「内なる子ども(inner child)」へのではなく)「内なる赤ちゃん/乳幼児(inner infant)」への働きかけです。たとえば、赤ちゃん/乳幼児の耐えらない苦痛や不快(赤ちゃん/乳幼児の「影」)は、赤ちゃんから切り離されて、お母さんの心に「投」げ込まれます。サバイバル(生存)のため、泣いたり、むずがったり、嘔吐したり、熱を出したりして「助けて!」を訴えます。

お母さんは、脊髄覇反射せず、瞬時に〈もの想い〉して「お腹がへったね、おっぱいね」「おねむかな」「ああ、おむつが濡れちゃったね」「暑かったわね」などと話しかけながら、赤ちゃんの苦痛や不快を引き受け、
それらをかみ砕き柔らかくし、赤ちゃんが取り入れ可能な心の離乳食に料理して、赤ちゃんに戻します。

5)赤ちゃんが耐えられない苦痛や不快を無駄にしないエコロジカルな循環的やり取りです。このやり取りを通じて、赤ちゃんの心に栄養が届き、お母さんや他者、人生や世界への基本的信頼感が築かれていきます。それには、赤ちゃんの苦痛や不快に対するお母さんの「コンパッション(compassion)」が必要です。「やさしさ」「思いやり」と訳される”compassion”は、”com(一緒に)” +”passion(苦しみ)”です。お母さんは、「コンパッション」を通して、赤ちゃんの苦痛や不快を排除せず、一緒にいて受け止め、能動的に応答します。

6)「投影同一化」から「取り入れ同一化」への一連の流れは、こうした、赤ちゃんとお母さんとの間における無意識的「コミュニケーション」でもあります。セラピーでは、それを見える化して、クライエントの利益のために活用します。なぜなら、母子間における悪循環にハマって苦しんできたクライエントの人が、たくさんいるためです。

7)お母さんから戻される心の離乳食を、赤ちゃんは、栄養として、心に取り入れ(ることができ)ます。これは、「肯定的」な取り入れ同一化です。

8)セラピーで問題になるのは、「否定的」な取り入れ同一化です。セラピストは、クライエントの否定的な「影」を、心に「投」げ込まれます。それは、赤ちゃんが、お母さんの心に放り入れるのと同じです。このプロセスは、言外に、瞬時に、無意識の中で生じます。それをしないと、赤ちゃんはサバイブできません。さもないと、赤ちゃんは空腹で死んでしまったり、エネルギーが尽きてぐったりしてしまったり、おむつを取りかえてもらえず、お尻がただれたりしかねません。

クライエントも同様です。

9)その赤ちゃんにも、クライエントにも、悪気はありません。しかし、セラピスト側は「泥水を飲まされる」「排泄物を押し込まれる」体験をします。胸糞悪かったり、腸(はらわた)が煮えくり返る感じを抱くかもしれません。そして、キレて脊髄反射し、クライエントを責めたりします。それは、赤ちゃん側からすると、「離乳食」でなく、歯の生えていない赤ちゃんには決して取り入れることのできない「固形物」を投げ返される(ぶつけられる)体験です。

10)脊髄反射をする母親やセラピストは、固形物を投げ返してしまいます。「固形物」を戻される体験こそ、実はクライエントの人が、乳児期に母親との間で(何度も)経験したこと、そのものだったりします。乳児が、泣いたり、むずがったり、吐いたりして「助けて!」と身体で表現したものに対し、母親が脊髄反射して、大声で怒鳴ったり、腹を立てて物を投げたり、その場から離れて赤ちゃんを遺棄したことの再演(re-enactment)が、セラピストとの間で生じます。

11)そのときセラピストは、クライエントのトラウマが生じた一連のプロセスの中に、巻き込まれます。クライエントの外傷プロセスを、内側に入って、生々しく体験し、味わわさせられます。セラピストも、「当事者」~たとえば悪い母親~になります。

12)ここで、「取り入れ同一化」を経験しているセラピストが、どう応答するのかが、困難であり、大変重要なことです。セラピストには、「コンパッション」を通して、クライエントの母親とは異なるアクションを起こす可能性や自由があります。苦痛や不快(という固形物)を、赤ちゃんの心の栄養になる離乳食に加工(料理)して返す選択肢をもっています。(注:取り扱いの難しい「影」は、つねに〈固形物〉です。それは、「影」に過ぎないのに、〈具体物〉かのようです)

13)赤ちゃんにとって耐えがたい苦痛や不快は、「スプリッティング(分割排除)」や「解離」という心の防衛法によって、切り離されて無かったことにされます。その苦痛や不快は、赤ちゃんにとっての「影」ですが、しかしこの「影」は、従来のユングやケン・ウィルバーによる「影とのワーク」では、取り組むことができません。

14)他人に「影を投げ入れ(投影)」、自らの苦痛、不快感、違和感を体験させると、その他人~たとえばセラピストやコーチ~は当然ながら、不愉快になります。しかし、投げ入れて相手を不快にさせることによってしか、その「影」は取り上げてもらえず、取り扱えないのです。自分では自覚できず、〈関係性〉がなければ特定できない「影」です。

「スプリッティング」や「解離」の絡む「影」は、自分〈独り〉で行うマインドフル瞑想やインナーワークでは、見つけることが難しい。瞑想やインナーワークは、万能ではありません。

15)あなたに思いやりや愛を抱く人でなければ、あなたの心の成長や活性化を支援する人でなければ、「不愉快な影」を取り上げ、それについて肯定的な形で、あなたと話題にすることはないでしょう。あなたには、そんな人がいるでしょうか?

16)セラピーで大変なのは、クライエントの「内なる赤ちゃん/乳幼児」との取り組みだと述べました。その赤ちゃん/乳幼児は、特定しやすい「大きなトラウマ」(だけ)ではなく、外部からは見えにくい「小さなトラウマ」を(たくさん)被ってきたかもしれません。そんな「内なる赤ちゃん/乳幼児」支援には、〈関係性〉における「取り入れ同一化」への眼差しが欠かせません。

17)さて、「サイコシンセシス(心理統合)」を創始したロベルト・アサジオリは、「同一化(identification)」と「脱同一化(dis-identification)」について、精密な研究と実践を行いました。そして、人は「無意識的」に同一化しているプロセスに、乗っ取られたり(ハイジャックされたり)、コントロールされたり、振り回されたりする、といいました。

赤ちゃん/乳幼児がスプリットして、投げ込む苦痛や不快(「影」)を、お母さんが無意識に取り入れて同一化すると、お母さんの心全体が苦痛や不快に乗っ取られ、その餌食となり、ブチ切れたりします。(注:苦痛や不快という本来「部分」でしかなかった影に、心「全体」がやられてしまうのです)

18)それに対し、サイコシンセシスが推奨する「脱同一化」ができると、まったく異なる地平が待っています。それは、同一化を「脱」することです。アサジオリによると、脱同一化ができると、それまで以上に「影」への意識的な同一化、コミットメントを可能にします。たとえば、自覚的に赤ちゃんの苦痛や不快(「影」)と、一緒にいることができるようになります。

19)脱同一化による「影への同一化」ができると、無意識的でなくなり、乗っ取られることも、振り回されることも生じません。それは「能動的同一化」です。そこにはコンパッションが、発動します。あなたは、そんな脱同一化にご関心がありますか?

20)能動的同一化ができると、赤ちゃんの苦痛や不快(「影」)を乗っ取られることなく、「所有」できるようにもなります。「所有(ownership)」とは何でしょうか?「所有」は、変容の要になります。これは、アサジオリが発見し、ケン・ウィルバーが洗練させたセラピーの現場で使える宝物です。「所有」について、ご一緒に取り組みませんか?

21)このセミナーでは、「脱同一化」の具体的やり方についても、学びます。それは、アサジオリやウィルバーの〈静的〉やり方とは異なります。セラピーの実践の中で無意識に展開する「取り入れ同一化」を、「脱同一化する」〈動的〉な方法を身に着けます。

22)今回、「投げ込まれた『影』、取り入れた『影』~投影&取入れ同一化と脱同一化~」について学びます。それは、関係療法的な手法を磨くうえでも有益です。セラピスト、カウンセラー、コーチ、コンサルタントはもちろん、初心者、一般の方にもお勧めです。

あなたは、現場で頻発する「投影同一化」と「取り入れ同一化」との(悪)循環、そして、それに対する良質な介入を可能にする「脱同一化」に、ご関心がありますか?

わかりやすく、かみ砕いて、基本からお伝えします。

具体的ケースをご用意して、あなたのセミナーへのご参加をお待ちしています。

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日時■ 2022年5月29日(日)10:00~17:00

会場■ zoomオンライン会議(お申込みいただいた方に詳細をお伝えします)

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子