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愛着とカウンセリング ~心理療法の最前線~|2017/11/26(日)

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1)関係療法や家族療法の中で、この十数年、脳科学などと共に、最も話題になってきているテーマの1つに「愛着」があります。今回、愛着について、マンスリーセミナーで、はじめてとりあげますあなたは、愛着が、心理療法の中で、大変重要視されるようになっていることを、ご存知でしょうか?   各種の重篤なパーソナリティ障害、精神病水準、依存症、共依存、虐待、発達障害、家族における心の負の世代間伝達などの理解に、愛着は欠かせない視点となってきています。今回のセミナーでは、その基本と、最先端の一端を、心理セラピーとの観点から、わかりやすく、実践に役立てることを意図して、お伝えします。

2)「愛着」や「近接」と訳される英語の”attachment(アタッチメント)”は、「付着」や「取りつけ」などとも訳されます。Attachmentには、小さなものあるいは付属のものを、大きいものまたは本体に、取りつける,くっつける,張りつける、という意味もあります。心理療法の文脈で言うと、乳幼児や子どもが、親や重要な他者、大人に、取りつく、くっつく、張りつく、付着する、近接する、と言えるかと思います。

3)愛着は、仏教では、対象(人や動物やもの)を追い求めることで、否定的にとらえられます。一方、乳幼児観察の視点からすると、それは、単に後追いを指します。動物・比較行動学のコンラート・ローレンツは、「刷り込み(imprinting、インプリンティング)」について、論じましたが、それは、愛着理解に参考になります。たとえば、カモなどの鳥に、卵から孵化した後、一定時間内に人や動物、あるいは物体を見せて追尾させると、その鳥は一生それを後追いするようになります。ローレンツの研究室には、実際、彼を親鳥と勘違いし、大人になった後も追尾するカモがいました。それでは、なぜ、動物や人間は、後追いし、付着、近接、愛着するのでしょうか?

4)心理療法的には、愛着が、安全感・安心感を得ること・維持すること・回復することを、可能にするから、と説明できます。愛着理論や関係療法からすると、愛着は、食事や睡眠や生殖と同じように生存に必要で、生涯にわたって私たち一人ひとりの情緒や思考や行動に、多大な影響を与えるものです。それは、他人との肯定的な関係が、空気や酸素と同様、私たちが生きていく上で不可欠なもの、と考えたハインツ・コフートの自己心理学や、大乗仏教の縁起の考え方と同様、関係性を前面に打ち出した視点です。その視座は、性欲求や攻撃性のような本能、あるいはドリーミングといった本質的なものが個人の内面にあって、それが、あなたや私の人生を規定する、と考える、1人心理学的見方とは異なります。このセミナーでは、本質と環境、また個人と関係の違いをわかりやすくご説明しながら、心理療法における愛着の役割、重要性、意味について考えます。

5)次に、愛着と心理療法に関する3人の代表的論客の見解を見てみましょう。ジョン・ボウルビィは、愛着を、「人(たとえば、子ども)が、危機的状況にあるとき、あるいは、そうした危機状態を予測し、恐れや不安などの感情が喚起されるときに、自分にとって大切・重要な人に物理的・実際に近づくことを通して、「安全感」を獲得・回復・維持しようとする試み」と考えました。アラン・ショアーによると、それは、「個人の情緒・情動の崩れを、関係性によって制御するシステム」です。一方、ピーター・フォナギーは、「恐れ、おびえ、不安のようなネガティブな感情を、子どもに耐えられる形にやわらげ、適切に映し出す・照らし返すこと」、また、「映し返しを通じて、子どもが、自分および他者の心の状態を、オープンに・柔軟に・まっすぐに理解する能力を、あますところなく発達させることができるように応援すること」を、愛着機能、と考えました。(注:フォナギーの愛着の視点には、コフート、ウイニコット、ビオンなどの影響が、多々見られます。それは、愛着理論と関係療法の統合と言えます。今回のセミナーで、ご一緒に考えませんか?   )

6)それでは、生涯にわたって私たち一人ひとりの情緒や思考や行動に影響を与える愛着に、もし(決定的な)問題が生じたなら、どのようなことが起きるでしょうか?   たとえば、接近と回避という首尾一貫性のない行動をとるようになるかもしれません。顔をそむけながら、しがみつく、といった相反的な行動を、愛着理論は、「無秩序・無方向型」、と命名しました。それは、グレゴリー・ベイトソンのダブルバインド的行動様式です。元来両立するはずのない真逆の愛着行為を(同時に)する子どもには、虐待が疑われる、と考えられています。また、無秩序・無方向型と重いパーソナリティ障害の関係についても理解が進んでいます。

7)愛着は、子どもとのカウンセリングにはもちろん、大人との心理療法やコーチング、ファシリテーションにも、不可欠な視点となっています。それは、重篤なパーソナリティ障害、依存症、共依存、DV、心の負のテーマの家族における世代間連鎖などに対して、緻密で精妙な視座を与えてくれるからです。

8)愛着理論は、実証的観察をベースとした古典的科学の王道から生まれています。一方、従来の臨床心理学の多く~特に深層心理学やトランスパーソナル心理学~は、イマジネーションやファンタジーやメタファーの読みや解釈、また、新たなナラティブ(物語)の紡ぎ出しを手段とするアート的な側面を、色濃く打ち出してきました。

9)その2つは元来相いれず敵対的です。しかし、実際の問題や悩み、症状で痛み、苦しみ、困難さを抱えているクライエントの人と、現場で関わっている実務・実践家が、その両方を、存分に活用しない手は、ありません。

10)心理療法やコーチング、ファシリテーションにおいて、アートと科学を統合的に活かすことを最初に、全面的・本格的に提唱したのが、トランスパーソナルのケン・ウイルバーでした。愛着に関するアートと科学の統合は、今日、ダニエル・スターン、フィリップ・ブロンバーグ、ピーター・フォナギー、ジェームズ・マスターソンらの関係精神分析の中で、実現されています。

11)愛着は、言語以前の発達段階で形成されます。そのため、言語とは違う手段による心理セラピーが、有益です。たとえば、ウイニコットのスクイグルやアートセラピー。たとえば、ボディワーク的セラピー。たとえば、瞑想的セラピー。それらを関係療法に組み入れた愛着と取り組みについても、今回、お伝えします。

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日時■ 2017年11月26日(日)10:00~17:00

会場■ 都内(お申込みいただいた方に詳細をお伝えします)

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子