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『狂気の癒し』精神病水準への参入法~名人サールズの臨床に学ぶ|2021/03/28(日)

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1)現在アメリカで、最高のセラピストといわれるポスト・ビオン派のトーマス・オグデン。そのオグデンに、最も臨床実践力があると評価されたのが、ハロルド・サールズです。サールズの臨床は、狂気の癒しと智慧でいっぱいです。サールズのアプローチは、解離、重いパーソナリティ障害、トラウマ、発達障害、依存症といった現代の心理的課題と取り組む上で、大変有益です。

2)日本でも、かつてサールズ・ファンが精神科医の中にかなりいました。が、セラピストやカウンセラー、コーチに、彼の臨床が知られたことは、今日までほとんどありません。

なぜでしょうか?

サールズの対象にした病態が、精神病、重いパーソナリティ障害、重篤な解離、トラウマだったからです。そうした病態を対象としたセラピストやカウンセラーは、日本ではあまりおらず、あくまで精神科領域のもの、とされてきたためです。

3)さて、日本でサールズを高く評価する人に、日本を代表する精神科医の中井久夫氏やユング派精神科医の織田尚夫氏などがいます。中井氏は、たとえばサールズの『分裂病論集』について「治療モデルが分裂病であった時代の記念碑」と述べています。織田氏は、サールズとユングの統合失調症治療の共通点について肯定的に論じています。

4)あなたは、かつて分裂病と呼ばれ、現在、統合失調症と言い直されるようになった病態の属する「精神病水準」について「自分には関係ない」と考えるでしょうか? しかし、ウィルフレッド・ビオンやマレー・ボーエンが唱えるように、どの人の心にも、必ず精神病的側面が潜在しています。自分の内なる精神病的側面(狂気)が意識され、そこが手当てされると、悩みや問題が、深い了解感と共に、癒し、回復、変容に向かい始めます。

5)この際のキーワードが、ビオンの「名づけようのない恐怖(nameless dread )」です。それは精神病水準に付随する、人を根底から揺さぶり、圧倒し、混乱させ、狂気に追いやりかねない不穏さ、不安、心配です。あまりにも恐ろしく、あまりにも苦しく、言葉にできない、区分けできず、直視できないのが、その特徴です。

6)A.ミンデルは、身体症状や病が、心の深層と不可分であるこを、たくさんの臨床ケースから示しました。が、身体症状や病と不可分の心の多くが、精神病水準にあることを、明らかにしていません。

7)一方、ユング派精神科医の山中康裕氏は、身体症状や病の多数は、基本的に心身症であり、その根っこは精神病水準にあると述べています。精神病水準には「名づけようにない恐怖」があります。これが取り扱われると、心身相関的な癒し、回復、変容が生じます。プロセスワークの身体へのドリームボディ(夢身体)アプローチが、功を奏します。逆に言うと、そこに目が向かなければ、真の癒し、回復、変容は起きにくい。ドリームボディの視座が、十分に活かされません。

8)なぜでしょうか。

それは、「名づけようのない恐怖」が取り扱われない場合、「解離」が生じるからです。解離が、放置されるためです。

9)解離は、統合失調症の「緊張(カタトニー)」状態に似ています。そこには、緊張状態に加えて、激動性、混乱が含まれています。緊張、激動性、混乱の塊(かたまり)が、解離に潜んでいます。

10)そうした解離の表れが、心身の症状、悩み、問題となる場合が少なくありません。ですので、心の悩みや問題、身体の症状や病に苦しむときに、解離を見抜き、そこに放置されている精神病的側面に目を向けることが必要です。

11)このとき大変参考になるのが、サールズの臨床実践です。ビオンのコンテイニングは、「名づけようのない恐怖」と取り組む上で、最良のツールの1つです。コンテイニングは、言葉にしたり、考えたりすることを不可能にする圧倒的な不安や、人を狂気に追いやりかねない恐怖を、直視し、言葉にし、考える上で何よりも助けになります。オグデンは「コンテイニング」について、ビオン自身が至ることのできなかったところにまで臨床実践で達したのがサールズであると、サールズを絶賛しています!

オグデンは、サールズとビオンは補完的であると述べ、この両者を比較検討しながら、今後の臨床の可能性について
論じています。これは、今日まで、日本で紹介されなかった大変貴重な考察です。オグデンの論文をわかりやすく翻訳して、セミナーであなたにお伝えします。

12)さて、中井氏が解説を書いているサールズの論文に「相手を狂気に追いやる努力」があります。中井氏は、はじめそれを「逆説的な意図を含んだタイトルか?」と思ったと述べています。が、そうではなく、タイトル通りの論文です。そこには、親が子どもを、子どもが親を、クライエントがセラピストを、セラピストがクライエントを、「狂気に追いやる努力」をしている過程が、生々しく描かれています。精神病水準、統合失調症、名づけようのない恐怖、解離とその取り扱いについて考え、学ぶ上で大変優れた内容です。

13)それは、タブーにも見える内容であり、しかし臨床現場で繰り広げられている本当の営みであり、「狂気の智慧」で一杯です。サールズは、クライエントとセラピストは、共にクレイジーとなって接近し、ゼロ距離で相互交流を営む段階を経なければ、心や身体の深層に潜む精神病水準の治療が全うされることはない、と断言します。彼は、セラピーの作業中にクライエントの病理の影響されて、何度も精神病的妄想状態になったこと、自殺の危機の淵に追い込まれたこと、つまり精神病的逆転移(狂気)について告白しています。中井氏はそれについて、「虎穴に入らんずんば虎児を得ず、という感じである」と評しています。

14)「狂(クレイジー)」の漢字を紐解くと、「犭(けもの)」+「王」です。宮沢賢治著『セロ弾きのゴーシュ』のゴーシュが奏でたセロは、まさに「犭(けもの)」の「王」のような存在で、病んだ動物(けもの)たちを次から次へと癒していきました。その姿は、サールズのセラピーを彷彿とさせます。これに対して、オグデンのスタイルは、エンデ著『モモ』に近い。セロは「犭(けもの)」たちのための「エナクトメント」を通じた音楽療法家であり、モモは「もの想い(reverie)」を通して「星」の音楽を聞くことができた不思議な少女です。(注:「エナクトメント」と「もの想い」については、セミナーでご説明します)

15)セロやサールズは狂気に対して「太陽」的、一方モモやオグデンは「月」的アプローチとも言えるでしょう。狂気に対するサールズとオグデンという天才セラピストの、臨床実践の違いに着目する点も、このセミナーの目的です。ビオンも、イギリスからカリフォルニアへ渡った後、狂気の智慧を余すところなく発揮し始めました。その点についても、触れる予定です。

16)サールズは、転移と逆転移、エナクトメント(といったセラピスト─クライエント関係)を取り扱う名人でした。オグデンによると、サールズは投影同一化との取り組みも上手かったそうです。今回、転移、逆転移、投影同一化、エナクトメント、ドリームアップについても学びます。それらは狂気に満ちており、また癒し、回復、変容の可能性でいっぱいです。

17)しかし注意していただきたいのは、私たちが狂気を推奨しているわけではない点です。主体性や丈夫で機能する自我をサポートするのが、臨床実践の核心だと考えます。そのために、ときに狂気に着目し、狂気からの癒しやそこに潜在する知恵に目を向ける必要性があると考えます。そのためには、サールズの精神病水準への参入の仕方、そこの通り方、そこからの戻り方が、大変参考になります。あなたに無理のない形で、ご一緒にサールズから学びませんか?

18)このセミナーでは、セラピー界において狂人的であり、同時に天才であるサールズ、オグデン、ビオンを素材に、セラピーの営みで本当に行われていること、またセラピーの本質や癒しや変容の可能性について学びます。

最後に、忘れてはならないことをもう1点。サールズの臨床実践における「遊び(play、プレイ)」側面も忘れることができません。プレイフルなサールズの臨床スタンスが、彼の治療をより魅力的なものにしています。

19)今回、精神病水準、重いパーソナリティ障害、解離、トラウマ、依存症、共依存症へのセラピーに対して、とても有益なサールズの臨床実践について学びます。サールズについてご関心のある対人援助の専門家、専門家を目指す方、今回初めて聞く内容だけれど、自分の家族や日々の暮らしに活かしたいと考えている一般の方、初心者の方、そしてあなたのご参加・ご購入をお待ちしています。

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日時■ 2021年3月28日(日)10:00~17:00

会場■ zoomオンライン会議(お申込みいただいた方に詳細をお伝えします)

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子