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井筒俊彦とW.ビオンに学ぶ深層関係療法

◎ 2018年3月23日(金)〜 全10回
◎ 配布資料+音声データをご購入いただけます

1)井筒俊彦氏は、日本を代表する、哲学的神秘主義者です。『コーラン』(岩波書店)の訳者であり、禅やタオイズム(道教)、西洋神秘思想などに深く通じているだけでなく、ユング派の誰もが尊敬するほど、深層心理学への造詣の深さでも、定評があります。

2)一方のウィルフレッド・ビオンは、メラニー・クラインの対象関係論に端を発し、そこに、自らの苦難に満ちた人生と、統合失調症や戦争のトラウマ、パーソナリティ障害といった方々とのかかわりを重ねて、独自の哲学的・神秘主義的な精神分析的関係理論を展開した人です。ビオンの実践は、危機状態にあるこころに対し、とても実践的で、有益な癒しや変容を喚起する心理療法を提供しています。

3)今回、井筒&ビオンという2人の最高の知性に触れ、深層の、そして神秘主義的な、心の深みを理解し、そこから、以下のようなことをじっくりと学んでいきたいと考えます。

・人生を深め、また臨床実践に役立つ心の深層の理解(神秘主義的な理解)
・心の深層と、セラピストとクライエントが出会う関係の営みとの関係

とくに、心の深層次元(縦次元)と、関係性(横次元)とを、どのように連動して理解したり、扱っていくことができるのか、井筒とビオンの知恵と実践から学び、また彼らにチャレンジしながら、現代に必要とされている、深さのある関係療法についてあなたとご一緒に考えます。

4)私たちは、2人を神秘主義者と考えています。神秘主義者は、人には、「心」がアプリオリ(a priori)にある、と考える人のことです。

5)「アプリオリ」とはどういうことでしょうか?

日本語では、「先験的」、「超越的」などと訳されます。先験的とは、「経験に先立って」、または「経験に関係なく」という意味です。つまり、神秘主義者は、「心」が、(あるいは「心の芽や可能性」が、)あなたや私の経験に先立って、あるいは、経験とは関係なく生得的にある、と考える人のことです。

6)それに対して現代人には、自分で実際に「経験」しないと、何事にも納得しない、信じない、という人が多いと思います。自分の実際の「経験」を、考えや生き方の基本・根拠とする、とする立場を、「経験主義(empiricism、エンピリシズム)」といいます。この経験主義は、神秘主義の真反対に位置します。

7)さて、一見、神秘主義的に映る精神分析などの深層心理学にも、経験主義が相当入り込んできています。たとえば、この世に生まれた「後」に経験した母子関係のトラウマが、現在のあなたの悩みの原因である、とする精神分析が、それに当たります。その考え方は、アプリオリではなく、生誕後体験、経験を重視します。

8)一方、ユングの集合的無意識やクラインのポジション(立ち位置、態勢)などは、非・反経験主義的です。つまり神秘主義的です。なぜなら、それは、私たちの「心(の深層)」には、アプリオリ~つまり、あなたの人生経験やあなたが受けたトラウマなどとは無関係~に、グレートマザー、悪魔、天使、神々、トリックスター、老賢人などといった<元型>が存在している、と考えるからです。

子どもたちをむさぼり喰うヒンズー教のカーリー女神、仏教の鬼子母神、西洋の魔女といった否定的グレートマザーのイメージは、あなた自身の、実際のネガティブな母親「経験」によってつくり出されたものではなく、もともとすべての人の「心」に巣食っていた元型的なもの、と想定するのです。

9)同じように、M.クラインは、「心」に、<妄想ー分裂ポジション>や<抑うつポジション>という心の態勢、立ち位置のようなものが、アプリオリに潜在している、と想定しました。(注:元型やポジションについては、講座で詳しくお伝えします)

10)深層心理学は、神秘主義と同様、「心」を前提とし、「心的現実」、「心的世界」、「心的プロセス」、「心的イメージ」を取り扱うものです。それらは、経験主義的なものではありません。実際の経験とは関係なく、存在するものと、想定されています。「心」をアプリオリに前提とする心理療法は、すべて神秘主義的です。

11)あなたは、心をアプリオリなものとして考えますか? それとも、経験主義的にとらえますか?

経験主義の代表は、社会学です。社会学は、社会(歴史)的関係が先にあって、その中で、または社会関係の結果ないしは構築、構成物として「心(なるもの)」ができる、と考えます。(注:社会学と心理学は、真反対の立場にあったのです。今流行りのナラティブ・アプローチは、経験主義、社会学の系譜にあります)

12)心的世界をベースに、心の癒しや回復、変容を試みるのが、深層心理学の神髄です。が、従来の深層心理学 ~たとえば精神分析、ユング心理学~ や、トランスパーソナル心理学は、1人心理学でした。

それに対して、私たちが推奨する深層心理学は、関係療法です。1人心理学と、関係療法には、大きな(質的)違いがあります。

13)その鍵を握っているのが、ビオンです。ビオンは、クラインの内的関係療法を参照しました。が、同時に、実際の(経験主義的な)母子関係に着目したD.W.ウイニコットに触発され、現実の人間関係にも着目しました。そうしたことから、ビオンの関係療法は、「神秘主義をベースにした経験主義的なもの」となったのです。そんなビオンを、私たちは、現代における実践的神秘主義者と考えています。

15)井筒俊彦の神秘主義は、私たちが知る限り最良のものです。「心」について、井筒以上の語り手はいないと思います。それは、基本1人心理学的ですが、「縁起」を中心とした関係的側面もふんだんに見られます。「心」を、現代の心理療法で活かしていくには、どうすればいいでしょうか?

私たちは、現代の心理的問題の多くは、関係性が架け橋にならなければひもとけないものと実感しています。そのために、ビオンや井筒の縁起理論は大変有益です。この連続講座では、ビオンや、井筒を入口に、現在に合った深層関係療法を学びます。その基本と最先端をじっくりと、ていねいにお伝えします。

この講座では、プロの方、プロの対人援助職をめざす人、また一般の方、初心者の方でこの分野に関心のある人のご参加をお待ちしています。

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日時■ 2018年3月23日(金)〜全10回 毎月第4金曜日 19:00~20:50

会場■ 都内

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子