《5》大学教員か、プロフェッショナルな心理療法家か、どちらを目指すかで迷っています。

どの分野でも一人前になるには、10,000時間の経験が必要です(プロフェッショナルとは)。
合理的観点から考えてみましょう。

大学教員の主な仕事には、研究、教育、会議、事務、学会の5つがあります。すると、臨床に費やす時間は、週に5~10時間が精一杯です。1週間に5時間(セッション)の臨床をすると、1か月では5時間×4週=20時間、1年では20時間×12か月=240時間(セッション)です。

大学教員として、10,000時間の臨床経験を積むには、41年かかります。その倍の10時間の臨床を毎週行ったとすると、10,000時間に達するまでに20.5年です。

一方、腕1本で食べられるプロのセラピストを目指す人が、1日に6時間、週に5日、それを12か月間続けると、年に1,440時間。10,000時間の経験を積むのにかかるのは7年弱です。夏休みなどを考慮して2か月休むと、年に1,200時間。10,000時間に達するまでには、8.3年です。

開業のセラピストがが、その後も引き続き、日に6時間、週に5日、年に10か月の臨床を、10年、20年と積み重ねていったなら、数万時間の臨床経験をすることになります。腕が良くならないわけはありません。

セラピストの腕の良さは、頭の良さ、いい論文や書籍の数、有名かどうかなどとは関係がありません。セラピー、カウンセリグ、コーチングは、職人的力およびアーティスト的創造力があるかどうかが、ものを言う職業です。

以上は、臨床実践の時間数からみた合理的見解です。
あなたの問いを考えるヒントにしてください。

《4》元クライエントが、将来、セラピストになれますか?

C.G.ユングが大切にしたセラピストイメージに、「傷ついた癒し手(wounded healer)」があります。それは傷を負った人が癒え、回復した姿を表すイメージです。ユングは、傷ついた癒し手こそが、当事者意識をもった真の癒し手(ヒーラー)になり得る、と考えました。

たとえば、元依存症の人こそが、現依存症の人のよき支援者となれます。あなたのクライエント体験、そこからの回復過程は、良質なセラピスト、カウンセラー、コーチになる上で、またとないリソース(資源)となるでしょう。

《3》これまでの挫折、失敗、傷つきは糧になりますか?

人生の紆余曲折、挫折、失敗、傷つき、混乱が、セラピストになるための、またセラピストとしてやっていくうえでの糧、そして、肥やしになります。

セラピスト、カウンセラー、コーチは、人生のさまざまな経験が、そのまま丸ごと役立つ仕事です。ただし、挫折、失敗、傷つきは、癒えていなければなりません。

挫折、失敗、傷つきから回復し、それらの体験を活用するために、まずは、セラピーを受けることを考えてください。

《2》若くして、大学や大学院に行かなくてもいいのですか?

焦る必要はありません。なぜなら、腕を磨くためには、大学や大学院で学ぶことができる「学問」的側面だけでなく、「職人」「アーティスト」的側面が必要であり、そこに年齢は関係ないからです。

「職人」「アーティスト」的側面には、人生(の紆余曲折、失敗、挫折)が反映されます。実践や場数がものを言う、ということです(紆余曲折、失敗、挫折が、癒えていて心の糧になっていることが前提です)。

大学や大学院にまず行って、職人&アーティスト的セラピストにになるべく、実践、場数とその背後にある人生経験を積むのか?

あるいは、紆余曲折、失敗、挫折といった人生経験を先に積み、その後でセラピーについて大学、大学院で学ぶのか?

どちらの方法も、いいと思います。

《1》70代ですが、今からセラピストを目指しても遅くはないですか?

70代でも80代でも遅いとは思いません。

富士見が学んだ大学院(米国トランスパーソナル心理学研究所)のクラスの平均年齢は、49歳で、最高齢の方は74歳の女性でした。

アメリカでは、中高年が、より自分に合った仕事に就くために、プロフェショナル・スクール(高度専門職向けの大学院)に、入学することがよくあります。また、臨床心理学系の大学院では、大学出の若い人よりも、中高年の方が多い場合がままあります。

いくつになっても、遅いことはないと思います。