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1)自然災害や戦争、家族崩壊などによって生じるトラウマに、「集合的トラウマ(collective trauma)」があります。集合的トラウマは、事件や事故、企業の倒産、離婚、夜逃げや一家離散などによっても生じます。
「集合的トラウマ」について最初に述べた社会学者のカイ・エリクソンは、これを次のように説明しています。
「社会生活の基本的な仕組みに対する打撃で、人々を結びつける絆を傷つけ、それまではあって当然とされていた共同体の感覚を損なうもの」。
(ちなみにカイ・エリクソンは、アイデンティティ概念を生んだエリク・エリクソンの息子です)
2)世界情勢の変化、環境や気候変動の激化など、私たちの心やコミュニティを揺るがす事態に遭遇することが増えました。今月のセミナーでは、「集合的トラウマ」と、その癒しや回復を理解し、日々の生活や営みに役立てていただくことを目指します。ご一緒に考えていきたいと思います。
3)私たちの日常は、家族や友人、知人とのつながり、学校や職場などのコミュニティ、あるいは地域社会、政治や経済状況などの上に、成立しています。
集合的トラウマは、生活の基盤となるこうしたつながりやコミュニティ、地域社会や政治・経済状況に傷(トラウマ)を負わせ、「腐食的共同体」を生みます。「腐食的共同体(corrosive community)」とは、環境社会学者W.フルウデンバーグによる用語で、「人と人との関係、結びつき、絆が、分断され、崩壊、バラバラ状態になったコミュニティ」です。
あなたは、腐食(=腐って物の形が崩れること)的共同体を、イメージできますか?
4)腐食的な共同体、家族やカップル関係、職場や学校などにいる個人は、トラウマを被(こうむ)りやすくなります。
しかし、集合的トラウマにおいて重要なのは、個人が被る「直接的な」トラウマだけではない、ということです。たとえ、トラウマを直接的に被っていないとしても、そのコミュニティに属する全ての人が、分断や崩壊の悪影響を「間接的」に受け、中長期にわたって心や関係性が、蝕まれることになるのです。また、間接的であるため、時間がたって忘れたころに、トラウマの悪影響が現れることもあります。集合的トラウマを直接経験していない個人にも、負の影響が及び、それが、長期にわたって続くこともあります。
どうしてでしょう? どういうことでしょうか?
セミナーでは、その理由、またそこからの回復、癒し、修復について、ていねいに学びます。
5)精神科医の中井久夫氏は、「心の問題のかなりの部分は、対人環境の調整によって、回復可能である」と述べました。中井氏は、個人の心の中や深みでなく、対人環境や生活環境にフォーカスする心理学を、「浅層心理学」と呼びます。
しかしそれは、「深層心理学」よりも軽薄な心理学、というわけではありません。浅層心理学は、家族や職場、学校、地域社会などコミュニティにおける人間関係や生活環境などに着目するものです。日々の暮らしに関する、大変有益なセラピーです。
6)集合的トラウマに関連するものには、「世代間連鎖トラウマ」「歴史的トラウマ」「社会的トラウマ」、そして「(ユングの)集合無意識的トラウマ」があります。「集合的シャドウ」は、特に重要な集合的トラウマです。セミナーでは、さまざまな集合的トラウマや集合的シャドウについても、見ていきます。楽しみにしてください。
7)精神科医の宮地尚子氏は、トラウマについて、「本来言葉にならない」(言葉の代わりに)「身体症状や行動として制御できないかたちであらわれてくる」と述べています。言葉や理性で制御されないトラウマは、「暴力的、破壊的、攻撃的」な行動や行為を通じて、人間関係、家族関係、職場環境、コミュニティに表出します。集合的トラウマによって、家族や職場、地域社会に腐食的共同体が生み出されると、そこでは暴力的、破壊的、攻撃的なプロセスやエネルギーが蔓延します。
8)そのコミュニティには、人と人とのコミュニケーションが途絶え、対話が貧弱になります。陰うつな空気や沈黙、イライラ、モヤモヤ、さみしさ、冷たさ、絶望や失望、無力感、否定感の漂う共同体です。「トラウマは本来言葉にならない」からといって、それを放置すると、コミュニティは陰湿になり、絶望感や無力感、不信感でいっぱいになりかねません。
コミュニティの中で、陰口や誹謗中傷が飛び交ったり、羨望、不公平感が生じやすく、また無関心や孤立、孤独やうつ状態がはびこりやすくなります。さらに、アルコール、薬物、ゲームなどの依存症、セックスや恋愛などの共依存症が多いのも、そのコミュニティの特徴です。
9)トラウマ・セラピーの第一人者であるジュディス・ハーマンは、トラウマの中核には、「人とのつながりが絶たれ、失われること」があり、そのことによって、「無力化(disempower)」されてしまうことが決定打となる、といいます。
だからこそ、集合的トラウマの癒しや回復には、つながり、絆、関係性を回復・修復すること、およびそれによって、関係性や心が「力づけ(empower)」されることが求められる、と強調します。エンパワーのためには、レジリエンス(修復力)や自己治癒力が不可欠です。このあたりもセミナーで触れていきます。
10)ユングは、我々ホモ・サピエンス(人類)に共通の無意識を、「集合的無意識(collectiveunconscious)」と呼びました。ここには、進化の過程で、サピエンスが何万年もの間に経験した生存に関わるトラウマが、集積されています。そのため、集合的無意識は、「精神病水準(における生存の恐怖や不安)」の源泉である、といわれます。
集合的無意識は、私たちの内面の深奥に潜みます。集合的トラウマを負うと、そのトラウマを被った人の、心の底に眠っていた集合的無意識または精神病水準の源泉が賦活され、表出されやすくなります。それは、私たちを、精神病の危険にさらします。
11)集合的トラウマ体験では、2つの難題が生じます。
1つは、心の深奥から精神病水準が浮上する危険です。これは、深層心理学が取り扱う領域であり、いわば縦次元のテーマといえます。
2つ目は、生活の基盤やコミュニティのつながりを失うこと。ここは、浅層心理学の取り組む領域で、横次元の課題といえるでしょう。
集合的トラウマとの取り組みにおいて、専門家は、この2方向へ目を向け、アプローチすることが必要です。
12)セミナーでは、集合的トラウマの現実的な回復や癒しについて、浅層心理学と深層心理学とから学びます。オーストラリアの精神分析医オイゲン・コウ氏は、日本人が集合的トラウマと取り組む際、「恥」と「罪悪感」に向き合うことが欠かせない、と述べます。
象徴人類学のV. ターナーは、コミュニティ再生の鍵は、「コム二タス(commumitas)=深いコミュニティ感覚」の獲得にある、と述べました。
(毒性の)恥、罪悪感、コム二タスについても、ていねいに取り扱います。
13)あなたは、生活基盤、また心の深層を大きく揺るがす集合的トラウマと、その作用や影響、癒しや修復、回復について、関心がありますか?
集合的トラウマについて、またその癒しについて理解することは、あなたの生活や関係性をより健康で豊かにし、有機的なものにしてくれることでしょう。
あなたが対人援助職であれば、日々の支援の仕事をより充実したものにし、具体的なアプローチを身につけることができます。
14)今回のセミナーは、家族療法家やカップル・セラピスト、ファミリービジネス支援の専門家、スクール・カウンセラー、コミュニティ・セラピスト、ケースワーカー、教師、弁護士、経営コンサルタント、医師、保健師、看護師などにお勧めです。
また、集合的トラウマについて学びたい個人療法家、コーチ、開業心理士にも、有益です。
今回のテーマにご関心のある一般の方、初心者の方のご参加も大歓迎です。
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日時■ 2024年9月29日(日)10:00~17:00
会場■ zoomオンライン会議(お申し込みいただいた方に詳細をお伝えします)
費用■ メールマガジンにてご案内しております。
講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子