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“憧れるのをやめましょう” 〜自分らしく豊かに生きる『抑うつポジション』の極意〜|2024/8/25(日)

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1)「憧れるのをやめましょう!」

これは、2023年WBC決勝戦の前に、大谷翔平選手が、チームメイトに伝えた言葉です。

「憧れるのをやめましょう」は、実はセラピーにとっても、大変重要なテーマです。

なぜなら、それは、私たちが健康な主体を育成するうえで、不可欠だからです。私たちが素面(しらふ)で、手ごたえや現実感、自己一致感のある日々を過ごすうえで、欠かせないポイントであるためです。「自分軸」を築くために、必要だからです。

2)自己心理学の創始者H. コフートは、私たちが健康な主体性を確立するうえで、憧れを持つことのできる対象、すなわち「理想化対象」が不可欠だ、と考えました。理想化対象は「父性的」なもので、「北極星」などにたとえられます。北極星のように行く先を照らす、指針や目指すべきものがあってこそ、私たちの健康な主体性が育つ、というのです。

(注:父性は父親だけが持っているものではありません。女性・男性を問わず、その性質の種は、誰にでも備わっています。一方で、父性の欠落した父親は少なくありません)

3)健康な主体(=「私」)の土台は、子ども時代に築かれますが、理想化対象イメージを担ってくれる親/大人がいない、あるいは、いたとしても質が良くないと、私たちの主体性の土台は、弱かったり、もろかったり、傷ついたりしかねません。土台の脆弱な人は、それを補うために、「極端」な理想化対象を心にイメージし、その極端なイメージを、「誰か/他者」におっかぶせる(=投影する)ということを、たびたびします。

4)セラピーでよく起きる転移(セラピストへの投影)に、セラピストの「神格化」があります。この場合、クライエントは極端な理想イメージを、セラピストに重ねています。そこには、クライエントの子ども時代に、心から尊敬できる理想的な大人がいなかったため、セラピストに極端な理想化イメージを重ねずにいられない、ということがあったりします。

あるいは、一応その大人はいたけれど、何らかの理由でその人を喪失して、心にトラウマ(傷つき)を負っている。その傷つきを補うために、セラピストを神格化している場合もあります。

5)あなたは、理想化できる大人のいないことが、心の主体性の土台作りのトラウマになることを、ご存知ですか?

心の土台は、幼少期の母親との関係で育成されると思われがちです。それは間違いではありません。しかしその一方で、理想化される大人、父性、北極星の欠如も、心の傷つきや脆弱さにつながります。

6)子どもは、理想的な人に、自分の人生(の方向性)を導いてもらいたいという欲求を、心に抱きます。それがかなわず、心に傷を抱えたクライエントが、神格化できるセラピストに「味方」になってもらい、「安心・安全」を提供してもらいたい、という切なる思いを潜伏させていたりします。「神イメージ」に、100%の承認をもらったり、絶対的な保障を得たりすることを、渇望するためです。

7)コフートによると、理想化対象あるいは北極星のないクライエントは、人生に「目標、目的、意味」を抱くことができません。そうしたクライエントとのセラピーでは、セラピストには、クライエントから向けられる、クライエントが望む通りの極端な理想化イメージ(=転移)を、一定期間、「あえて」引き受けること、その度量や寛容さが求められます。

8)が、セラピーが進展し、クライエントに力がつくと、抱いていた理想化イメージは、幻想/妄想に過ぎなかった、とわかる瞬間が、「必ず」やって来ます。それを、コフートは「変容性内在化」、M. クラインは「抑うつポジション」、D. W. ウィニコットは「脱錯覚/脱幻想」、と呼びました。

そこで明らかになるのは、(a)セラピストは、理想的なイメージとは異なる、(単なる)人間に過ぎない、という気づきです。

また、(b)理想的イメージは、主体性の土台の脆弱さをカバーする補償的役割を担っていたとはいえ、『そのイメージ自体』が、幻想、妄想、錯覚、絵にかいた餅(もち)であった、という洞察です。

9)(a)や(b)の経験を通じて、私たちは、「憧れるのをやめましょう」の、心理学的意味を、把握することができます。それは、極端な理想的イメージを、《喪失》する瞬間です。

しかし、《喪失》は、理想的イメージのエッセンスを、「ほどよく/適切に」、心に《消化、吸収し、内面化》する機会でもあります。それは、私たちの主体性に背骨をもたらし、心の健康な土台を育成します。心に縦次元が生まれ、しっかりと大地に根を張り、伸びて成長していく軸となります。

10)が、そのプロセスには、衝撃や驚愕、痛み/悼み、悲しみ/哀しみが、伴います。理想イメージ、すなわち幻想や妄想がはがれて、現実や真実に目が開かれる体験、醒めて素面になる経験は、大変な苦痛を伴います。W.ビオンは、それを「破局/破滅の瞬間」と称し、フェミニストでユング派のポリーヤング・エイゼンドラスは「健康なトラウマ体験」と述べました。

11)苦痛を伴う目覚め(waking up)を回避する人は、誰か/相手に「憧れ」続けます。なぜなら、現実、真実を見ることに耐えられないからです。素面になるのに不可欠な、健康な主体性が、十分に育っていないためです。

12)すると、自分の極端な理想的イメージをかなえてくれない相手(側)を、ディスったり、なじったり、見下したり、否定したりします。たとえば、

  • セラピストは、自分の思っていた「先生(グル、師匠)イメージ」とは違った
  • 彼女は、自分の期待していた「カワイイお姫様」ではなかった、騙された
  • 彼は、「王子様」のはずだったのに、裏切られた
  • せっかく産んだ子どもは、「ハズレ」だった

などと他罰的になります。

13)自分の持つ極端なイメージ=「幻想、妄想」や、極端な理想イメージを抱く自分の「心の未熟さ」に目を向けるのではなく、相手(側)に責任を転嫁(てんか)します。その背景には、他人をディスる『過酷な超自我』が潜みます。その過酷な超自我は、他人だけでなく、実は、「自分自身」をもたびたびなじり、見下し、否定します。そのため、たびたび深く落ち込みます。

極端な理想化は、「憧れ」と、(憧れのかなわないことによる)「落ち込み」とを、繰り返し、経験させます。

憧れと落ち込みは、共に大変リアルな経験ですが、両方とも現実を見(られ)ない、幻想/妄想から
くるものです。

(注:どういうことか、セミナーでお伝えします)

14)芸事、職人、武道の世界には「守破離(しゅはり)」という言葉があります。修行における、師匠や流派の教えおよび型(これらは北極星ですが)を「守る」時期、その教えや型を「破る」時期、教えや型から「離れる」時期、の3段階を指した言葉です。

「憧れる」をやめ(られ)ない人は、「破る」こと、そして特に「離れる」ことはできません。「憧れ」(=師匠や流派の教えや型)を「守る」だけです。こうすると、「技術」は磨かれても、「心」は成長せず、修行が行き詰ってしまいます。健康な心、または、健康な主体性=「自分軸」が、確立されていないためです。

15)技術は身についている一方で、心が成長していないと、(自ら、無意識裡に)「破」や「離」を回避したり、拒絶したりしかねません。また、たとえば成功したいと願いながら、相手を憧れ、リスペクトし過ぎると、能力の発揮を、自ら抑制/抑圧しかねません。その点を、大谷選手は、チームメイトに警告したのだと思います。

「技術力は十分にあるのだから、アメリカ人大リーガーに憧れることで、へりくだったり、自分の能力を抑えることをしないようにしよう。そうではなく、その相手を超えて上を目指そう。自分たちらしく力を発揮しよう!」と伝えることで、仲間を鼓舞し、励ましたのだと思います。

16)「憧れる」のはやめ、師匠や流派の教えと型を「破り」「離れる」ことは、野球だけでなく、セラピー、コーチング、コンサルティングなどの領域で、私たちが真に腕を磨き、腕を上げるための重要な鍵です。

あなたは、本当の実力を身につけたいですか?

その鍵は、あなたの健康な主体性の育成です。

17)健康な主体は、あなたが、あなたのパートナーを、素面で、ありのまま見るのを後押しします。その時あなたは、あなたのパートナーに無意識的に向けていた極端な自分の見方(=投影)や、その投影を行っていた自分の姿が見え始めるでしょう。この心の経験は、あなたとパートナーとが、(幻想/妄想をベースとするのではない)現実に根差した、素面で豊かな関係を築くのを可能にします。あなたと子どもや家族、友人、知人との関係も、良好になるでしょう。

18)その時、あなたの人生の目的、目標、意味も明らかになるでしょう。なぜならあなたの内面に、質のいい「父性」が育ち始めているからです。その糸口が、「憧れるのをやめること」へのまなざしです。

19)セミナーでは「“憧れるのをやめましょう” ~自分らしく豊かに生きる『抑うつポジション』の極意~」にご関心のあるセラピスト、カウンセラー、コーチ、ケースワーカー、医師、看護師、保健師、ボディワーカー、コンサルタント、ファミリービジネスの専門家の方、そして一般の方、初心者の方のご参加をお待ちしています。

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日時■ 2024年8月25日(日)10:00~17:00

会場■ zoomオンライン会議(お申し込みいただいた方に詳細をお伝えします)

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子