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『変わらない』『変わりたくない』心に変容をもたらす鍵 ~関係で行う協働ワークスルー(徹底作業)~|2025/10/26(日)

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1) 深層心理学的セラピーは、「心の変容」を目的とします。変容とは、心の「表面的改善」ではなく「深層における質的変化」を指します。変容が生じると、私たちは持続可能な癒し、成長、成熟、救済、解放を経験します。しかし、それは簡単ではありません。なぜなら心には、「従来」のバランス、あるいはホメオスタシス(恒常性)を、維持しようとする力が、強烈に働くからです。たとえそのバランスが「病的」であったり、「マイナス」であったりしても、です。

2) 私たちは「なじみの不安」を、「変容の不安」よりも優先します。変容の不安は、「なじみのない未知への恐怖」を喚起します。それを避けるために、従来の負の心的バランスに戻ろうとします。心の癒し、回復、成長、成熟、救済、解放などを求めて、せっかくセラピーにやってきたのに、それまでの心のあり方に戻る / 留まることを(無意識裡に)選択してしまう。人生が停滞し、行き詰まってしまうのに。

3) 精神分析医のW.ビオンは、心の変容には、それがたとえ肯定的なものでも、「破局(カタストロフィー)」が伴う、と考えました。ですので、セラピストは、それがクライエントにプラスの変化をもたらすものであっても、変容にまつわる不安、痛み、恐れに、意識的(conscious)であることが必要です。

4) C.G.ユングは錬金術を参考に、トランジション(変容)には、心の「死と再生」の過程が必須であると述べました。心の、とはいえ「死」が伴いますから、心的変化には、破局や解体のプロセス、それへの恐怖、不安、苦痛があって当然です。こういった点に自覚および配慮がなければ、深層における心の質的変化は、阻まれ、抵抗にあうでしょう。

5) 「ワークスルー(work through)」は、「徹底操作」と”意訳”されてきました。”work”は「作業する」、”through”は「通って、貫いて、経過して」を意味します。”work through”の文字通りの意味は、「心の作業をやり抜く、やり続ける」ですが、深層心理学では徹底操作と訳されてきました。

6) 「心を操作する、それも徹底的に」と言われると、とても嫌な印象を抱くのではないでしょうか?私たちが、そうでした。プロセスワークやタオイズム(老荘思想)を大事にしてきた私たちは、「自然(ナチュラル)」「プロセス」を信奉してきました。精神分析の「徹底操作」や ” 錬金術 “ に影響されたユング心理学の「反自然(contra-naturam)」という言葉には、不快や違和を覚えていました。

7) しかし、浅はかでした。錬金術師にとっての「自然」は、” 未熟な原初物質あるいは原初的状態(prima materia)” を指しますが、そこから ” 真の黄金(sol philosophorum)”を作るには、自然の流れを『反転』させ、原初物質を変容させる必要があります。「反自然」は、” 原初=低次の自然 ” 状態にあるものを、意志 / 意図を持って『反転』させ、” 高次の自然 ” を生むうえで不可欠です。

8) ユングにとって”自然”とは本能 / 集合的無意識、一方”反自然”とは、そこに能動的に参画することです。彼は、低次元の自然(=集合的無意識)に受動 / 盲目的に流されることなく、それと意識的に向き合い心を錬金する過程を、個性化や自己実現と呼びました。心の変容、錬金、個性化には、反自然や徹底操作が必要です。

9) 「徹底的」とは、「中途半端でなく、隅々まで / 余すところなく」を意味します。「操作」は「あやつって動かすこと」です。この場合の操作は、「マニピュレーション(小細工、ごまかし)」ではなく、「マネージメント(管理、運営、統御)」を意味します。(注:D.W.ウィニコットは、心理セラピーにおけるマネージメントの必要性を説きました。セミナーで考えましょう)

10)「徹底操作」は、「低次元の心が、高次元の心へと変化するように、プロセスを余すところなく注視し、マネージメントする心の作業」です。それは骨の折れる作業ですが、心に黄金をもたらすでしょう。そうしたセラピーに、弁証法的行動療法、マスターソン・アプローチ、対象関係論などがあります。

11) いま述べたワークスルーは、セラピストとクライエントの『協働』で進められます。なぜでしょうか?『クライエント-セラピスト関係』が、クライエントの「従来」の心的バランスを変化させず ” 維持 ” する要因になっているケースが、少なくないためです。これは、「関係療法」の見解です。関係療法は、心的変化の障壁を、クライエント”だけ”に求めません。クライエント”1人”に、徹底操作を要求しません。

12) 対象関係論のベティ・ジョセフの例から考えます。彼女は、サド-マゾ(SM)的に凝り固まった心のバランスを解決したい、と訴えるクライエントとのセラピーを行っていました。クライエントの状態が良くなり始めると、なぜかジョセフは、ほんの少しですが、いつもより「懲罰的」な物言いになっていたといいます。それはクライエントの “マゾ的側面の期待” に沿う発言です。セラピストが無意識裡に “サド” 的になり、クライエントの “マゾ的希望”に応じることで、クライエントの「従来」のサド-マゾ的心のパターン維持に、加担していたと述べます。

14) ユング派分析家のトマス・キルシュは、セラピーで夢分析を行う前に、夢を夫に聞かせる女性クライエントに、注意を促しました。事前に誰かに夢を話してしまうと、心のエネルギーの漏出になる。それでは、心に変容は生じない。変容を促すエネルギーを錬金術の容器(心の容器)に溜めるために、セラピーに来るまで夢を誰にも話さないように、と彼女に忠告します。錬金術を参照するユング派のセラピストとしては、もっともな発言です。が、そのクライエントは、「勝ち負け」「誰が主導権を握るか」という心の囚われ、心のパターンに苦しんでいました。にもかかわらず、そのクライエントに対してキルシュは、無意識裡に” 主導権 ” を取ろうとしていたのです。彼は、ユング派の正統的やり方にこだわることで、クライエントの心の病的バランス~「誰が主導権を握るか」「勝ち負け」~の維持に盲目的に加わっていた、と自己省察しています。

15) ジョセフの場合も、キルシュのケースも、”クライエント-セラピスト関係” の中で、クライエントの『従来』の心のバランスがキープされています。関係療法の観点からすると、クライエントのプロセスだけに注視することは、セラピストが、ある場合にはクライエントのSMの心的パターンに、別の場合はクライエントの主導権をめぐる心的バランスの維持に、無自覚に加わることになります。ですので、セラピストとクライエントが「協働」して、2人の関係について、徹底に操作する必要があるのです。

16) 「ワークスルー」や「反自然」のためのツールが、深層心理学の「転移」「逆転移」「投影同一化」「エナクトメント」、カップルセラピーや家族療法の「システム論」「メタ認知」、交渉術の「ウィン-ウィン交渉」などです。セミナーでは、そうしたツールをふんだんに活用して、凝り固まって変化しない心への、有益なアプローチについて学びます。

17) 変化しない心は、複雑性 / 発達性トラウマ、ACE(小児期逆境体験)、解離、DV、重篤な依存症、共依存症、パーソナリティ障害、強迫神経症といった心の核心にあります。セミナーでは、その核心に働きかけ、心に変容をもたらす具体的取り組みについて、初歩からお伝えします。最新の知見についても、ご紹介します。それは心を活性化し、あなたにみずみずしさ、柔軟性、豊かな充足感をもたらすでしょう。

18) 「『変わらない』『変わりたくない』心に変容をもたらす鍵~関係で行う協働ワークスルー(徹底作業)~」にご関心のあるセラピスト、カウンセラー、コーチ、教師、グリーフ・ケアワーカー、コンサルタント、ファミリービジネスの専門家、福祉や医療関係者のご参加を、お待ちしています。このテーマにご関心のある一般の方、初心者の方のご参加も大歓迎です!

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日時■ 2025年10月26日(日)10:00~17:00

会場■ zoomオンライン会議(お申し込みいただいた方に詳細をお伝えします)

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子