に投稿

対人交流する脳 ~右脳どうしの相互作用がもたらす関係的外傷の癒し~|2024/5/26(日)

◎ オンライン開催
◎ 配布資料+音声データをご購入いただけます

1)関係によって刻まれた外傷(トラウマ)は、セラピー関係における相互作用によって癒される。

これは、私たちがこれまでのセミナーで、たびたびひもといてきた、「関係療法」による癒しの神髄です。

今回のセミナーでは、その癒しのメカニズムについて正面から切り込み、取り組む内容をお届けします。

2)現在、セラピーの領域で、地殻変動が起きています。「科学的」心理セラピー領域における、パラダイム・シフトが、始まっているのです。

そこでは、認知行動療法が、「客観性」を重んじる生物学や脳科学から、「科学的でない」と判断されています。「認知行動療法」は、客観性や再現性を売りにして、心理セラピー領域を席巻し、主流派(メインストリーム)の座を、獲得しました。その認知行動療法がいま、「科学的見地」からの、批判にさらされているのです。

2)ここで、簡単に心理セラピーの歴史をふり返ってみましょう。

1960年代までは、精神分析が、セラピー分野の王様でした。

1970年代になると、精神分析を非科学的であると批判した「行動科学(行動療法)」が、その玉座を奪います。

やがて、1980年代には、「認知科学(認知療法)」が主流派となり、行動療法は認知療法と手を結んで、「認知行動療法」として生き残りを図ります。

しかし、1990年代から、認知行動療法は、生物学や脳科学をベースとする新たな科学的セラピーから、その客観性、再現性を疑われ始めたのです。

3)アカデミズム界におけるトレンドの変化は、たとえば大学や大学院で用いられる教科書の数に、はっきりと現れます。”Norton”という出版社は、生物学や脳科学に基づく心理学や、対人神経生物学的セラピーに関する「教科書」を、すでに約70冊も、出版しています。

4)では、なぜ90年代から、「新しい科学的」セラピーが生まれ始めたのでしょうか?

それは脳科学の領域で、テクノロジーの革新が生じ、たとえば「fMRI(機能的脳画像法)」によって、脳内の活動状態が見える化され、新たなエビデンス(証拠)が収集されるようになったからです。それが、認知行動療法の明らかにしてきたことと、食い違っていたためです。

ちなみにfMRIは、ノーベル経済学賞を受賞して以来、俄然(がぜん)着目されるようになった「行動経済学」や、「コーマ(植物・昏睡状態)」の領域などでも、積極的に用いられています。

5)さて、認知行動療法で扱われる「認知」は、発達心理学的には、言語を獲得し、あやつるようになる「2歳」前後から、可能になります。それと呼応するようにこの時期の子どもは、「イメージ」や「象徴」も、使うようになります。

6)ところが、現代における重要な心の課題や苦悩との取り組みには、この認知能力を獲得する「以前」、2歳前後以前の乳幼児~小児期における「関係性」に着目する必要があります。たとえば各種依存症や共依存がそうですし、解離や複雑性トラウマ、ACEs(小児期逆境体験)はもちろん、パーソナリティ障害や統合失調症、双極性障害や発達障害との取り組みにも、必要とされています。

7)乳幼児期の記憶を「認知的」に持っていることは、基本的にありません。例外的にあっても部分的か、あるいは稀(まれ)にです。ですので、従来の認知行動療法では、原則として取り扱うことができません。しかしながら、現代的な心の苦悩に対しては、この時期へのまなざしが欠かせません。

8)さて、fMRI(機能的脳画像法)は、たとえば言語を獲得していない赤ちゃんと、お母さんの「右脳」の同じ部分が、共起/同調/同期(シンクロナイズ)する現象を、見える化しました。お母さんの働きかけに、赤ちゃんは、0.0001秒のスピードで、呼応することがわかっています。赤ちゃんとお母さんは、感応/直通しあっているのです。

9)1990年代の脳科学は、「個人」の脳を対象とするものでした。

が、2000年代に入り、個人の「間」、つまり「関係性」における2つの脳のありよう/反応に、研究対象が移っていきました。この分野の代表的セラピスト、アラン・ショアは次のように書いています。

「対人交流を持つ脳が、他者の脳と神経活動を1つにつなぎ、同期する関係メカニズムを理解することが可能になった」。

10)セラピーでは「認知、言語、イメージ、象徴」ではなく、(認知の生まれる以前の)「情動」「身体」と「関係性」に、焦点が当たるようになりました。その「関係性」は、「右脳と右脳との関係」から、紐解かれるようになっています。

11)情緒や情動、関係性、脳や神経に着目し、生まれた科学的心理セラピーが、「対人(関係)神経生物学(interpersonal neurobiology)」あるいは「関係的神経生物学(relational neurobiology)」です。

それは、現代の困難な心の課題、たとえば各種依存症や共依存、解離や複雑性トラウマ、ACEsなど、あるいは各種パーソナリティ障害、統合失調症、双極性障害、発達障害との取り組みに、新たな道を切り拓いたのです。

12)認知、言葉や象徴「以前」の領域は、五感に分かれる「前」の、アリストテレスのいう「共通感覚」のところです。あるいはダニエル・スターンの「情動調律」、野口晴哉氏の「直通」が取り扱う領域であり、E. ジェンドリンの「フェルトセンス」や、C. G. ユングや量子論の「共時性/直接性」、A. ミンデルの「ドリーミング」、W. ビオンの「O(オー)」と響き合う次元です。その領域における関係の「内側」で起きていることが、脳の機能画像を通して、見えるようになったのです。

13)ユングは最晩年に、「未来のセラピーは脳科学を統合したものになる」と論文で記しています。フロイトもまた、もともとは、脳や神経系の病理学的変化を研究する神経病理医師でした。科学的セラピーの最前線では、いまや、フロイトやユングが関心を寄せていた領域に、テクノロジーの進化を経て、再び光が当たっています。

14)対人神経生物学は、生物学や脳科学とスピリチュアリティ、関係性、臨床心理学の交差する学際的、統合的領域です。セミナーでは、「右脳と右脳との交流」に着目する対人神経生物学/関係的神経生物学セラピーとそのケースに着目します。その理解を深めるために、fMRIを通じたコーマ状態や、脳出血によって崩壊していく脳と、その復活とを経験した神経解剖学者の自験例をご紹介します。あなたは、サイエンス(科学)に裏打ちされた最先端のセラピーの知見、有益さを目にすることができます。

15)右脳どうしが同期・共起することで生じるやり取り、コミュニケーションは、認知や言葉を獲得する以前の領域にアクセスします。それは、潜在的・無意識的な次元へのアクセスとなり、混乱した、あるいは壊れたアタッチメント(愛着)の修復にもつながります。

こうした関係療法の営みが、どのように関係的な外傷を癒すことになるのか、事例をもとに学んでいきます。それは、とても繊細で、同時に大変パワフルな取り組みとなります。

17)今回「対人交流する脳 ~右脳どうしの相互作用がもたらす関係的外傷の癒し~」にご関心のあるセラピスト、カウンセラー、コーチ、ケースワーカー、医師、看護師、保健師、ボディワーカー、コンサルタント、ファミリービジネスの専門家の方、そして一般の方、初心者の方のご参加をお待ちしています。

* * * * *

日時■ 2024年5月26日(日)10:00~17:00

会場■ zoomオンライン会議(お申し込みいただいた方に詳細をお伝えします)

費用■ メールマガジンにてご案内しております。

講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子