ファイナンシャル・セラピー

「ファイナンシャル・セラピー(金融療法)」を知っていますか?

これは、心理の専門家と、お金の専門家であるファイナンシャル・プランナー(FP)の協働によって創られた分野です。歴史はまだ浅く、2007〜2008年の金融危機の後、アメリカで誕生しました。

金融危機、たとえばリーマン・ショックや世界恐慌による不況は、家計を苦しめます。それだけでなく、先の見えない日々が続く中で、どうしようもない不安やうつ状態といった苦しさを経験する人も多くいます。そのような、お金にまつわる心理的な苦しさをサポートするために生まれたのが「ファイナンシャル・セラピー」です。

目次

ファイナンシャル・セラピスト(FT)とは

まず、日本では、FTの専門資格はまだありません。ファイナンシャル・セラピーを実践する人のことをファイナンシャル・セラピスト(FT)と呼びます。

ファイナンシャル・セラピーとは、簡単にまとめると、人々が自分の経済状況についてどのように考え、感じ、行動するかを理解することによって、お金に関する問題や不安を改善し、お金との付き合いかたをサポートするものです。

もっと知りたい方のために、詳しい定義も引用します。

ファイナンシャル・セラピーは「認知、感情、行動、関係、経済的側面を統合し、経済的な健康を促進する」(FTA, 2014)ことにより、お金の対人/個人内の側面に取り組みます。主に金融とメンタルヘルスの専門家によって構成される新興分野です。ファイナンシャル・セラピーの大きな目的は、経済的な幸福と健康(financial well-being)の向上だけでなく、最終的には生活の質(QOL)を向上させることです(Archuleta et al. 2012)。

Financial Therapy: Theory, Research, and Practice

FTの仕事は、相談者の経済的なウェルビーイングが続くこと、その結果として、相談者の人生の質が向上することを目指しています。

具体的には、相談者の生まれ育ち、キャリア、現在の経済状況、身近な人との関係性、お金に対する考え方や信念、お金のことでいつも陥ってしまうパターンなどを包括的にとらえ、個々の困りごとへの対処法を相談者と一緒に考えます。

ここまで読んで、多くの人は、次のように思うかもしれません。

—— FTは、よく聞くファイナンシャル・プランナー(FP)とはどう違うの?

業務上、重なる部分も多くあると思います。違いを明らかにするために、まずは、FPの役割についても確認してみましょう。

ファイナンシャル・プランナー(FP)とは

人生の夢や目標をかなえるために総合的な資金計画を立て、経済的な側面から実現に導く方法を「ファイナンシャル・プランニング」といいます。ファイナンシャル・プランニングには、家計にかかわる金融、税制、不動産、住宅ローン、保険、教育資金、年金制度など幅広い知識が必要になります。これらの知識を備え、相談者の夢や目標がかなうように一緒に考え、サポートする専門家が、FP(ファイナンシャル・プランナー)です。

日本FP協会

FPの仕事は、金融資産ごとの特徴や現行制度などに関する知識を用いて「相談者の夢や目標がかなうように一緒に考え、サポートする」ことです。

FPは、簡単にいうと「くらしとお金」の専門家、家計の相談に関するプロです。具体的には、個人や家族の経済状況を分析したり、ライフイベントを踏まえた資産設計をしたり、資産形成のためのアドバイスをしたりします。

FPとFTの違いが、少し見えてきたでしょうか?

FP相談がうまくいかない一つの理由

たとえば、過去にFPに相談した時に、「寄り添ってもらえなかった」「アドバイスが役に立たなかった」「あまり意味がなかった」とおっしゃる方がいます。

その中には、お金にまつわる心理的な苦しさへの対処を求めていたにも関わらず、FPには気づいてもらえなかった、適切に扱ってもらえなかった、という場合も多いと思います。とても残念なことです。

ですが、この場合、どちらを責めることもできません。なぜなら、

  • 相談者が抱えているのは心理的な苦しさであること
  • FPは心理の専門家ではないこと

お互いに認識していないからです。

どんな相談も「見立て」が重要

まず、心理的な苦しさは、簡単には言語化できません。そして、相談の背後にある心理的な苦しさを見抜くトレーニングをFPは受けていません。私はここに、相談者もFPも気づかない落とし穴があると思っています。

心理療法では、相談者の状態をいろいろな角度から見て、関わりかたの方針を立てることを「見立て(アセスメント)」と呼びます。見立てをもって、自分の力では及ばないと判断した場合、その相談者を別の専門家/専門機関に紹介することも日常茶飯事です。

家計のやりくりに関する具体的な相談なら、FPが適しています。

一方、相談する中で出てきた厄介な感情をうまく扱えるのは、FTです

お金が足りないことへの不安、ふとした時に味わう落ち込み、パートナーのお金の使い方に積もるイライラ、やめられない買い物依存、長い歴史の中で繰り広げられてきた家族同士の衝突・回避・緊張状態。そういった背景を丁寧に見立てて、相談者のニーズに合わせて一所に手入れをしていくのは、FTの仕事です。

専門家として何ができるか

お金の専門家として

この記事を読んでいる方の中には、現役FPとして働いていて、お客様のニーズを拾い上げるための傾聴や共感を心がけている方も多いと思います。しかしながら、心を込めて対応しているにも関わらず、「お客様(が抱えている不安や衝動性)に振り回されて疲弊している」「お客様をうまくサポートできていない感じがある」ということはないでしょうか?

FTの見立てのアプローチを学び、実践していけると、FPは相談者の潜在的なニーズにも応えやすくなるのではないかと思います。

心理の専門家として

心理臨床家にとっても、FTは大変魅力的なアプローチです。なぜなら、心理療法の場面でタブーとされてきた代表的なテーマの一つが「ファイナンス」つまりお金にまつわることだからです。この傾向は、日本でもアメリカでも変わりません。

これまでタブー視されてきたからこそ、セッションの中で、安心と安全を徹底しながらお金のテーマを扱えると、クライエントに一層喜んでもらえると私は考えています。

おわりに

お金は、私たちのウェルビーイングに大きく関係します。

ファイナンシャル・セラピー(FT)を受けたい、という方がいらしたら、初回相談をお申し込みください。

また、ファイナンシャル・セラピー(FT)を学びたい、FP業務や心理臨床に取り入れたい、という方も、ぜひお問い合わせください。IPP事務局よりご返信させていただきます。