(文責:岸原麻衣)
以前、ファイナンシャル・セラピーの初回の流れについて書いた中で、見立てが重要であることを説明しました。
見立てとは
クライエントの人生を支援するために、状況を聴き、お金や感情や行動などの面から多角的に仮説を立てることです。心理学では、アセスメント(assessment)や査定とも呼びます。
ファイナンシャル・セラピーの見立てには、様々なツールを使いますが、
- 金融(ファイナンス)の視点から見立てる
- 心理(サイコロジー)の視点から見立てる
の両方ができると、クライエントにより良いサービスを提供できると思います。
今回は、AFP資格を持つファイナンシャル・セラピストとして、ファイナンスの視点からの見立て、つまり、数字から見立てる方法について、FPの知見を用いて書いてみます。
ツール1 資産と負債
まず、ファイナンシャル・プランニングでは、クライエントが持っている資産と負債(バランスシート)を把握する必要があります。現状を知ることは、未来の計画を立てるための基礎になるからです。
バランスシートとは…
クライエントの財務状況を一目でわかるように整理したものです。具体的には、持っている資産(貯金、投資、家、車など)と負債(借金、ローン、クレジットカードの未払い金など)を一覧にして、全体のバランスを確認します。何を持っていて、何を借りているかを整理して、お金の全体像を把握するのに役立ちます。
全財産の価値をある時点でスクリーンショットしたもの、とも言えるでしょう。
ファイナンシャル・セラピーでも、同様に、バランスシートを確認することには大きな利点があります。クライエントが今まさに困っている、あるいは、これから直面しうる経済的なストレスについて見極めるのに役立つからです。
また、困りごとの軽減や、現実的な解決に向けて一緒に考えていくために、クライエントの社会・経済的地位、経済的資源、制約などの背景情報を理解しておくことは、ファイナンシャル・セラピストにとっても大変重要です。
ただし、ファイナンシャル・セラピーでは、すべてのクライエントとバランスシートを土台に話し始めるわけではありません。
なぜでしょうか。
クライエントの目的が、プランニングではない可能性があるからです。バランスシートがあれば、数字に基づいて議論できる一方、多くの人にとってこのツールを使いこなすのは難しい。特に、資産や負債は、クライエントの人生そのものです。よほどオープンな人でない限り、他者に見せるのには勇気がいります。そこには当然、抵抗感や恥ずかしさも伴うでしょう。数字は時に、物事を明白に語りすぎてしまいます。
ツール2 収入と支出
ある期間のお金の流れを捉えようとするのが、収入と支出(収支)です。期間の区切りは、日、週、月、年などの単位が一般的で、その期間内に手元に入ったお金と出ていったお金を調べます。
時に、ファイナンシャル・セラピーには、次のような問題を抱えて相談にやってくるクライエントが少なくありません。
- 貯金ができない。
- 買い物依存の傾向がある。
- 「これを買ったら幸せになれる」あるいは「これは買わないと後悔する」と思って買うのに、結局、幸せになれていない。
- 趣味にお金を使いすぎる。
- 安定した収入はあるのに、なぜか毎月赤字である。
こうしたお困りごとに対して、客観的な事実としてお金の流れを確認することは、クライエントの感じている難しさについて考えるのに、とても役立ちます。
とはいっても、お金の流れを理解することと、お金を使う場面での行動が変わることとはまた別物です。この実践の部分については、また改めて書きたいと思います。
ツール3 財務比率
財務比率とは、バランスシートや収支をもとに、クライエントの財務状況を効率的に評価する指標のことです。具体的には、流動比率、当座比率、自己資本比率、固定資産回転率、総資産回転率などの指標があります。
…と書かれても、多くの人にはピンとこなくて当然だと思います。
分かりやすく言うと、財務比率を使うと、クライエントからの次のような質問に答えることができます。たとえば、
- 今の貯蓄で、私はあと何ヶ月くらい生活できるでしょうか?
- 突発的な支出に備えるために、私にはどれくらいの貯蓄が必要でしょうか?
- 借入金があり、毎月いくら返済するのが私にとって良いでしょうか?
- 私が投資に回せる資金はどれくらいでしょうか?
などです。クライエントが気になっている事柄について、現状を把握
し、手っ取り早く具体的な数字で答えを出せるのが、財務比率です。
また、多角的に仮説を立てるためには、近い将来的に問題となる可能性のある点を認識しておくことも不可欠です。潜在的なリスクを早期発見するという意味では、財務比率の分析は、定期的な健康診断のようなものと捉えても良いでしょう。
おわりに
ここまで、ファイナンスの視点から見立てるための3つのツールについて解説しました。
クライエントのリアルなバランスシートや収支を見せてもらうことは、セラピストが意図しない形で、クライエントに余計な負担をかけてしまうことがあります。そのため、私は、クライエントの目的を最優先し、必要だと判断した場合にのみ、今回紹介したようなツールを活用しています。
目の前のクライエントにどのような負担がかかり得るのか。抵抗感や恥ずかしさについて、どうやってセラピストと話し合えるのか。お金について話す時に出てくる感情が見過ごされたり、放置されたりしないことが最重要だと私は考えています。
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