「貧しさ」に関する深層心理学と象徴心理学

今回は、「貧しさ」について、深層心理学と象徴心理学から考えます。

「貧」は「分」+「貝」ですが、それは貝が分かれて、壊れることを意味します。その貝は「タカラガイ」を指します。古代には、タカラガイを「貨幣」とした人たちがいました。なぜでしょうか?

理由の1つは、タカラガイの形象が、女性器に似ていて、赤ちゃんを産む、めでたさや豊饒を、象徴すると考えたからです。タカラガイは、「安産のお守り」になったり、「子安貝」と呼ばれたりしました。赤ちゃんは子宝と考えられたため、「宝貝(タカラガイ)」と表記されました。子安貝が分かれて破壊されると、赤ちゃんが生まれることはできません。もちろん象徴的にですが。その様(さま)を、古代人は「貧」という文字で表しました。

宝貝は女性器というより、より正確には「子宮」を象徴します。子宮は胎児を懐胎し、赤ちゃんを産む器官です。「深層心理学」では、赤ちゃんを「心の成長可能性」ととらえます。心の子宮が割れて壊され、心の潜在可能性のなくなった状態が、「心の貧しさ」です。「貧しさ」に、強烈な恐れ、過度な不安、耐え難い苦痛を感じる人が、少なくありません。

その時、ファイナンシャル・セラピストは、「実際に」お金がなくて貧しさを恐れているのか、それとも「心に」お金がなくて貧しくなることに不安がっているのか、あるいはその「両方」か、を確かめます。

「実際に」資産を数千万、いや数億円現金で持っていても、貧しさを恐れ、不安がり、苦痛を感じる人がいます。その人が「心」に、お金を持っている気がしないためです。「現実」の膨大なお金が、「心」の貧しさを解消しないからです。

ある大金持ちの人が「貧しさ」を強烈に恐れて、ファイナンシャル・セラピーを受けにやってきました。その人の幼少期の話を聴いていくと、その人が生まれた時に母親が亡くなり、子どもの時から母親の死についてきょうだいに責められ、自分でも罪意識を感じてきていました。その罪を償うために懸命に働き、きょうだい及び父親が金銭的に困らないように、大きな資産を築き上げたとのことです。

合理的に考えれば、母親が亡くなったことに対して、赤ちゃんであったその人に、何の罪もありません。しかし、その人は子どもの頃から「子宮が二つに分かれて、分かれた間から自分が奈落の底に落ちていく」という類(たぐい)の悪夢を繰り返し見て、うなされ、苦しんでいました。

悪夢を見たことについて父親に相談すると、「母親は妊娠中に重篤なうつを患って、中絶を真剣に考えた。その思いが、お前が胎児の時に子宮を通じて伝わったのかもしれない」という恐ろしい話を聞かされたそうです。

深層心理学のW.ビオンは「心の子宮を心」、C.G.ユングは「魂の子宮を魂」の象徴的容器だと考えました。象徴的容器があってこそ、心や魂の「受け皿」「居場所」「家」「故郷」ができます。それがなければ、心や魂は「剥(む)き身」「裸体」状態のまま、孤児や迷子になったり、疎外感を覚えたり、死の恐怖を感じたりすることになるといいます。

「貧」は、上に挙げた人の深層におけるそうした状態・状況を、象徴している、と深層心理学は考えます。それは、実際のお金の「貧」ではありません。その人は、膨大なお金を持っているのですから。その人は、心的あるいは魂的貧しさに、恐れ、脅え、痛みを感じ、ファイナンシャル・セラピーにやってきたのでしょう。

「小さかったあなたに責任はない」という合理的アドバイスは、その人の役に立ちません。そんなことは、その人が一番よくわかっています。そうではなく、深層に、小さかったその人を受け入れる心的または魂的容器がないこと、容器が壊れていることに苦しんでいたのです。

精神科医のビオンやユングは、深層の子宮の破壊は、「精神病」的状態・状況を生じさせかねない、と警告しました。先の男性の「貧」への恐怖、不安、苦痛は、精神病や狂気と紙一重のものだったのだと思います。

ファイナンシャル・セラピーには、お金、貧しさ、豊かさ、投資、相続、事業承継といったことを主訴に、相談にくる人がたくさんいます。が、その背後には、深層心理学や象徴心理学的テーマが潜んでいます。

私たちは、深層心理学と象徴心理学を取り入れた深みや厚みのある ファイナンシャル・セラピーを提供しています。ファイナンス(金融、お金)の背後、深層にある心や魂の真のテーマとまっすぐに取り組むためです。

それが、現実のファイナンス状況の改善、ファイナンシャル・ヘルス(お金の健康さ)の回復、ファイナンシャル・リテラシー(お金に関する読み書き)の向上につながるからです。