企業における世間的コミュニケーション

企業に勤めるビジネスパーソンから、コミュニケーションについて相談される機会が多くあります。

企業でのコミュニケーションに傷ついていたり、つまづいていたり、コミュニケーションについてよりよく知りたい人、ベターなコミュニケーションを身につけたい人は、IPPのセラピーをぜひご活用ください。

ここでは、私たちが見聞きしてきた経験から、企業でのコミュニケーションについて、心理臨床家としての見解を述べます。ここでいう企業は、大企業だけでなく、零細中小企業を含みます。また、非ファミリービジネスとファミリービジネスの両方を含みます。少しでもあなたの参考になれば幸いです。

世間の論理

過去30年の間に私たちが相談を受けたクライエントの属する企業では、すべて「《世間》の論理」が幅を利かせていました。「社会(=法律)の論理」の機能している企業は、ほとんどありませんでした。「世間的コミュニケーション」や「世間体(せけんてい)」が優先されていたのです。

たとえば、ある社員が、論理的&効率的な面から、ベストだと考える見解を提案したとしましょう。もしその見解が、会社内の世間的人間関係や世間体を壊すものであれば、それがどんなにすばらしいものであっても、採用されません。それどころか、その見解を出した社員は、「不満分子」「抵抗勢力」などとみなされたりします。企業で大切なのは、新奇で良質なアイデアなどではなく、すでにできあがった会社内の従来の人間関係を保守することだからです。それを壊すことは、その提案が、ビジネス上プラスのものであったとしても、マイナスに取られます。

世間に長けた社員は、世間的人間関係を構築していますので、仕事でしくじっても、なじられることは少なく、カバーしてもらえたりします。世間でうまく立ち回れる人は、ドンドン出世します。「大事なのは、《人間力》だ」、などとよくいわれますが、その「人間力」は、世間体をよく理解し、世事に通じていることを指します。それは、心理学のいう「実存的人間力」では、ありません。

世間でうまくやっていくには、「周りに好かれるように気をつかうこと」です。「周りが、自分をどう思っているのか、いちいち気に留めること」です。「嫌われないように、ふるまうこと」「周りをキョロキョロすること」です。

心の軸は、「自分に」はなく、「他人/周り/世間側に」、あります。自分に軸はないので、軸はいつもブレ、揺れていて、不安定です。ハラハラドキドキが、止まりません。企業で出世しても「気働き」が絶えず、精神的ストレスがたまります。うつを患いかねません。

世間と病的な甘え

世間と不可分なのが、「甘え」です。甘えは「赤ちゃん」と「お母さん」との関係に必須のものです。その大切さを見える化したのが、精神科医の土居健郎氏です。精神分析医のマイケル・バリントは「甘え」を『受動的愛』と言い換えました。

赤ちゃんは、「受動的にしていても、お母さんに愛されること」を必要とします。赤ちゃんの時に、「良質な甘え」を経験できなかった人は、いくつになっても「甘えること」「甘えさせてもらうこと」「甘やかされること」を無意識的に、過剰に希求します。それは、『病的』受動愛です。

過剰に甘やかされても、病的受動愛を提供されても、良質な甘えを経験できなかった心が「満足」することはありません。良質な甘えの不足・不全からの回復には、心理セラピーが必要です。

さて、良質な甘えの不足・不全している人が、ビジネスパーソンになったら、どのようなことが生じるでしょうか?

とてもよくあるのが、「身体は大人、頭は大学を出ていて弁が立つ、しかし、心は赤ちゃんのまま(心の成長が止まっている)」状態です。その人が、受け身で愛を求める。上司や同僚や、あるいは部下に「よしよし」してもらって当然、してもらえなければ「不当だ」と本気で思っている。

難しいのは「身体は大人で弁の立つ、こころが赤ちゃんのまま」の社員が、自分のそうなっている姿に、まったく気づいていない、無意識である、という点です。また、そうした「病的な甘え」が、社内の《世間》的ルールの下では、暗黙裡に承認され、甘やかしがまかり通っている点です。

世間的コミュニケーションに苦しむ人へ

相手にじょうずに取り入る人は、甘えるのがうまい。良質な甘えであればいいのですが、そうでない場合は、社内に「病的共依存関係」が、はびこります。

「世間」と「病的甘え」の絶えない多くの日本企業では、ビジネスに加えて、世間と病的甘えとからなる人間関係に、配慮しなければなりません。「無賃金の気働きあるいは感情労働」が求められます。

そうした人間関係に苦しむ人、企業における《世間》的コミュニケーションについて、しっかりと理解したい人に、IPPのセラピーはお勧めです。「社会=法律の論理」に基づいたコミュニケーションに興味のある方も、ご連絡ください。