セラピーでは、コミュニケーションについて、相談されるケースがたびたびあります。日本で多いのが、
「モノローグ(monologue、独白)」です。セラピーで求められるのは、また目指されるのは、ダイアローグ(dialogue、対話)です。C.G.ユングは、『心理療法論』の1ページ目に、心理療法はクライエントとセラピストとの「ダイアローグ」を通じて行われる、と明言しています。
“dialogue(ダイアローグ)” は、語源的には、“dia”(間に、横切って)+ “logue”(話す)で、「2人以上の人物間の会話」を意味します。一方、“monologue”(モノローグ)は、“mono”(一つの、単独で)+ “logue”(話す)で、「自分独りで話すこと」「独り言」「独白(どくはく)」です。
日本で多いのが、「独り言」「独白」。そして、その独り言を聞いた相手が、(独り言を述べた本人に確かめることなく)『勝手に』(その意味を)「察すること」、またその独り言にうまく合わせて、反応すること。それが、日本では求められます。これを、「阿吽(あうん)の呼吸」「以心伝心」「暗黙の了解」などといいます。
そこで期待されるのは、モノローグ(独り言、独白)の「連鎖」です。たとえば
(1)Aさんが独白をします。
(2)一瞬、沈黙または間(ま)が生じます。
(3)Aさんの独白を受けたBさんが、勝手な推察をします。
(4)Bさんは、その推察に基づいた脊髄反射/自動反応をします。あるいは、Bさんも独白を始めます。
(5)一瞬、沈黙または間が生じます。
(6)Bさんの独り事を受けたAさんが、勝手な推察をします。
(7)Aさんは、その推察に基づいた脊髄反射/自動反応をします。またはAさんの独り言が始まります。(8)・・・
です。Bさんが、Aさんの独白に、反意を抱いたり、反対意見を表明したりすることはもちろん、質問したり、口をはさんだりすることも、基本いけません。それは、独白文化の暗黙のルール、に反します。独白文化の「美的センス」に合いません。反意、反対意見、質問を伝えたくなった気持ちをグッと抑え、我慢して呑む込み、相手の本意を上手に察して、相手が気持ちよくなるように、相手の気分がよくなるように、相手が上機嫌になるように、反応し、ふるまうこと。それが求められます。
それは、「質問や確認のない推察ゲーム」です。質問や確認のないまま、相手の思いをうまく察し、相手の気持ちをじょうずに読まなければなりません。わからなければいけない。
そのゲームのベースには、『甘え』がある、と精神分析医の土居健郎氏は、喝破しました。赤ちゃんは、お母さんが、赤ちゃんの気分、機嫌、状態を察してくれることで、生存できます。お母さんが、自分の手足、奴隷となってくれることで、生きることができます。土居の「甘え」を、精神分析医のマイケル・バリントは「受動的愛」と呼びました。赤ちゃんは、受け身のまま愛してもらうことを、必要とします。
この甘え、受動的愛が、「あうんの呼吸」のベースです。「オーイ」と呼ぶと、「ハーイ」と応えて、お茶、新聞、メガネ・・・を出してもらえる、ことを『甘えて』期待する。いや、察してもらうことを、相手に強要する。察してもらえない・わかってもらえないと、自己愛が傷ついて、怒り出す。「何で、手足、奴隷になってくれないんだ」とばかりに。肉体は「大人」になっても、心は「赤ちゃん」のままだから、傷つて、怒ります。
独り言、独白を見事に描いたフォークソングに、因幡晃作『わかってください』があります。
「・・・
町で貴方に似た人を見かけると
ふりむいてしまう悲しいけれど
そこには愛は見えない
これから淋しい秋です
時折手紙を書きます
涙で文字がにじんでいたなら
わかって下さい
・・・」
独り言、独白に基づいたコミュニケーションは、相手が「わかってくれる・理解してくれること」を、前提としています。
C.G.ユングのセラピストとクライエントからなるダイアローグは、「弁証法=産婆法」と呼ばれる、ソクラテスとプラトンとの対話を、参照しています。ソクラテスの哲学は「わからないこと・理解できないこと(=無知の知)」をベースにしています。わからない・理解できないからこそ、『お互いに』質問したり、口をはさんだり、反対意見を表明したり、することを積み重ね、そこから、心/精神の赤ちゃんを産んでいく。それが、弁証法=産婆法とも言われるダイアローグです。
それは、『わからないこと・理解できないこと』をベースにした、生産的で、クリエイティブな協働作業です。
モノローグは、話者が、心理的赤ちゃんに「なる」ことを前提としています。
一方、ダイアローグは、2人で、心理的赤ちゃんを「産むこと」を、目指します。
「察してもらうこと・わかってもらうこと」を土台とした日本的コミュニケーションと、「わからないこと・理解できないこと」を当然のこととしたダイアローグ。IPPでは、その両方について取り組んでいます。
モノローグとダイアローグと、両方のコミュニケーションについて身につけると、あなたの「人間関係の質」は向上します。セラピスト、カウンセラー、コーチ、コンサルタント、ファイナンシャルプランナー、弁護士、税理士、医師、看護師、ケースワーカーに学んでいただきたいコミュニケーション法です。
あなたが、コミュニケーションにご関心があれば、IPPのセラピーをぜひご活用ください。