プロのセラピスト、カウンセラー、コーチ、コンサルタント、アドバイザーといった対人援助職は、心を成長・成熟させておく必要があります。
なぜでしょうか?
理由は、対人援助職の心の成長・発達段階によって、援助の「質(quality)」に、違いが生じるためです。ここでは、クライエントだけでなく、セラピストやコーチなどに必要とされる、発達課題と援助の質について考えます。
人間(ホモ・サピエンス)の成長や発達は、植物と違って、「自然」に開花するものではありません。それには、「関係性」という『人工的な』土壌または環境が必要です。クライエントに提供する関係的土壌や環境の質は、セラピスト、カウンセラー、コーチ、コンサルタントの心の成長・成熟度によって、変わってきます。対人援助職の心の発達度合いが、「関係の質」に大きな影響を与えるのです。そして、この関係の質(環境や土壌)に、クライエントの心は、左右されます。
今日、発達心理学で主流なのは、次の4段階からなるものです。
(注:私たちは、M.マーラー、D.スターン、M.クライン、E.エリクソンの発達心理学に影響を受けています。が、ここでは、トランスパーソナル&統合心理学の見方を述べます)
(A)自己中心的/自己愛的段階
(B)自分たち中心/自文化中心主義的段階
(C)全ての文化中心/グローバル主義的段階
(D)宇宙中心主義
プロのセラピスト、コーチ、コンサルタント、メンタル・サポーターになるには、心が、(C)の全文化中心/グローバル主義にまで、成長・成熟していることが求められます。しかし実際には、心の発達が(A)や(B)に留まったままの対人援助職が、少なくありません。
(A)や(B)段階のセラピストやコーチが、心、精神、メンタルの支援をしたら、どうなるでしょうか…?
トランスパーソナル&統合的心理学のケン・ウィルバーによると、心の専門家を名乗るコーチやカウンセラーで、この段階の人は少なくないといいます。「セラピスト」や「コーチ」を名乗る人が(A)の段階にいると、クライエントを自身の自己愛的欲求を満たすための手足にしかねません。
セラピストやコーチが、(B)にいる場合は、どんなことが起きるでしょうか…?
心の成長が(B)段階にあるセラピストやコーチ、コンサルタントは、クライエントが「既存」のグループに適応するのを支援します。しかし、既存のグループからクライエントが卒業し自立/独立することをサポートするのは、困難です。
(B)は、既存のグループの価値観に従順な、「善良な市民」の心を持つ人たちの発達段階です。そこからの卒業を応援するには、専門家の心が既存グループの価値観の「外部」である(C)の段階に成長、発達していなければなりません。しかし、善良な市民段階に留まり、既存の共同体 〜たとえば「世間」〜 の価値観に従順なセラピスト、カウンセラー、コーチは、少なくありません。ウィルバーは、この成長段階の自称カウンセラーやコーチは、大変多いと述べます。
既存の価値観から卒業するには、J.マスターソンのいう、「境界性パーソナリティ障害(BPD)」の心が抱える「見捨てられ不安」を克服していたり、M.クラインの「抑うつポジション」の段階に達していたりすることが、求められます。BPDの克服には、既存のグループのメンバーから、「裏切り者」呼ばわりされることへの罪悪感に耐えたり、持ちこたえたりする必要があります。
(注:BPDの見捨てられ不安と取り組んでいないカウンセラーやコーチは少なくありません。BPDの見捨てられ不安と、抑うつポジションについては、セラピーの現場でお伝えします)
(C)全ての文化中心/グローバル主義的段階は、「私」「主体性」「自分軸」「成熟した自我」の確立した段階でもあります。それは、「自己中心性」と「自分たち中心性」の両方を卒業し、「他者」や「他グループ」を、自分や自分たちと同じように、尊重できる心の成長段階です。
心がこの段階に至ったコーチ、コンサルタント、セラピストだけが、クライエントを、自由に、オープンに、「永続的に」支援できる、と発達心理学は明言します。
カルロス・カスタネダの一連の本に登場するシャーマンのドン・ファンによると、多くの先住民は「自分たちのグループ内」に留まっている、それに対して、自分は先住民の共同体の「外部」にいる、コミュニティから自由にならなければ、真のシャーマン(心の戦士)にはなれない、と述べています。
一方、(B)の自分たち中心主義段階に留まっている人は、たとえば「世間」の中で嫌な、苦しい思いをしているのに、その世間について、「嫌な世間ですね、苦しい世間ですね」と他の人や、他のグループから言われると、不愉快になったり、傷ついたりします。自分たちのグループ ~たとえば「世間」~ 中心主義だからです。
この段階で成長の止まっているカウンセラーやコーチは、自分の依って立つ理論や自分の属するグループが批判されることに、耐えられません。たとえ、その批判が、妥当であったとしても。
既存のグループに従順な「自分たち中心主義」から解放されて、他のグループを自由に包摂(インクルーシブ)するには、何が必要でしょうか?
この段階まで心の成長・成熟を遂げた対人援助の専門家は、その人が依拠する心理学の理論やコーチング・グループだけでなく、他の心理学理論や他のコーチング・グループと、自由に行き来し、すべてを包摂できるので、自分の対人援助に、シナジー(相乗効果)やクリエイティビティ、イノベーションを生むことができます。その心は「自分軸」を持ち、その軸から様々な理論やグループとコンタクトを持つことができるからです。
専門家が、(C)段階まで、心を成長・成熟させるには、どうすればいいのでしょうか?
そのための成長・成熟のための鍵は、何でしょうか?
「関係療法」です!
IPPは、その関係療法を、ご提供しています。
さて、(D)の宇宙中心主義的段階とは、どういったものでしょうか?
(C)の段階で獲得した「自分軸」を相対化し、超越した段階です。また、超越したそのまなざしから、すべての人間や人間のグループだけでなく、生きとし生けるすべて、また鉱物、空気、天候、水、風、火、土、さらに宇宙の惑星や星々のありとあらゆるものを、包摂できる心の段階です。
あなたは、(D)の段階にまで、つまり「自分軸」をもち、またその自分軸を「相対化」できるところにまで、成長・成熟したセラピストやコーチによる対人援助(の質や中身)を、想像できますか?