魂(たましい)とは?
ユング心理学では、「女性の心の内なる男性性(=魂)」を “animus”(アニムス)、「男性の心の内なる女性性(=魂)」を “anima”(アニマ)といいます。アニムスとアニマはどちらも「魂、息、呼吸、精神、心、生命(力)」を意味します。ラテン語では、「魂」の男性形が “animus” で、女性形が “anima” です。
深層心理学では、魂の喪失(soul loss)を、「生命(力)のない状態」と考えます。
以上を踏まえ、ここでは、女性の自己実現と「魂」について、ルーマー・ゴッデン著『ねずみの女房』(福音館書店)から考えてみましょう。
『ねずみの女房』あらすじ
平凡に暮らしていた女房ネズミと夫ネズミ。女房ネズミは、ある日、鳥かごの下に食物が落ちていることに気づきます。鳥かごには、家主のウィルキンソンさんが森で捕まえたハトが入っています。食物を目当てに鳥かごの下に通うネズミは、ハトと言葉を交わすようになります。
女房ネズミは、他のネズミと違っていました。今持っていない《何か》を欲しがっていたからです。それを聞いた夫ネズミは、「住まいもある、夫もいる、食物もあるではないか」と言い、女房ネズミの訴えを理解しようとしません。
ハトのところに通っていると、女房ネズミは、いろんなことを教えてもらいます。窓の外の広い世界のこと、空を飛ぶことなど。そんな女房ネズミに対して夫ネズミは「気にくわん」と良い、彼女の耳をかじる、といった暴挙を働きます。女房ネズミは、ハトのところへ行けなくなってしまいます。
が、ある時、夫ネズミが友だちのところに出かけた隙に、彼女はハトに会いにいきます。女房ネズミを目にしたハトは、羽を広げて女房ネズミを抱擁し、キスをします。
その夜、女房ネズミは、鳥かごに囚われているハトの苦しみに思いを寄せます。「今すぐにハトのところにいかなくては」という思いに駆られます。窓の外の月の光に照らされた森を見上げて、「ハトは、あの森に帰らなくてはならない」と考えます。
ハトのところにやってきた女房ネズミは、鳥かごを開けるために、歯で留め具に喰らいつき、全力でぶら下がります。が、折れそうになった歯の痛みに耐えられず、彼女は、バサッと床に落ちます。すると、それまで眠っていたハトは目を覚まし、窓の外へ飛び去って行きました。
飛んでいくハトの姿を見ながら女房ネズミは、「あれが飛ぶということなんだ!」と思い、涙を流します。そして、見上げた夜空に星々が輝いていることに気づきました。多くのネズミの見ることのない星を、女房ネズミは目にすることができたのです。
女房ネズミの欲しがっている《何か》
「住まい、パートナー、食物」だけでは、《何か》が足りない、《何か》が欲しい、と思った時、女性の自己実現あるいは個性化の過程が始まることがあります。その自己実現は、たびたび「魂=アニムス(女性の内なる男性性)」の事象と関係しています。
深層心理学では、「森は異世界や夜見る夢の世界」「鳥は魂」の記号とされることがありますが、ここでは、その解釈に従います。異世界に住む女性の魂(アニムス)=ハトを、家主のウィルキンソンさんが捕まえて、鳥かごに入れてしまいました。「こちらの世界」に、「あちらの異世界」の存在が捉えられ、監禁されてしまったのです。この物語には、その魂を解放し自由にするというテーマがあると考えます。そのために、女房ネズミは全力で格闘したのです。
さて、女房ネズミの欲しかったものは何でしょうか?
彼女にはわかりませんでした。答えは前もってわからない。でも、《何か》が欲しい。それが《何か》わからないまま、日々の生活を営んでいくしかない。
そんな中で彼女がとった行動は、ハトを解放することでした。それが、内なる魂を解放することだは知らずに…。それによって、彼女は、窓の外の広い世界を見ることができたのです。窓の外に見えるのは、実は、文字通り(literal)の「外」の世界ではありません。そこは、深層心理学的には、「心の《内なる》広い世界」「心の《内なる》宇宙」です。
魂とのつながりを取り戻す
外的世界に飛び立つこと。女性の自己実現のためには、それだけでは相変わらず《何か》が足りません。《何か》は、「内的な夜空と星々」を見ることだったりします。それを《欲していること》が、ままあります。内的な夜空と星々とを見ることによって、失っていた魂(の世界)とのつながりや生命力を取り戻すこともあります。
魂は、「こちらの世界」と「あちらの世界」とを結びつけたり、両世界の架け橋になったりする存在、といわれます。自己実現の過程にいる女性は、夢分析、アートセラピー、身体症状との象徴的ワークなどを通じて、「内的な夜空と星々」「心の内なる広い世界」「心の内なる宇宙」を見ることを必要とします。
IPPでは、そのアシストとなる心理セラピーを提供しています。自己実現や内なる魂との取り組みに関心のある女性の方に、ご活用いただければと思っています。