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1)今月のセミナーは、「共時性(シンクロニシティ)と変容過程」について取り扱います。最初に、有名なユングの事例を紹介するところから始めましょう。
2)極めて現実的で合理的なある女性クライエントは、ユングの心理療法に、抵抗を示していました。彼女はそれ以前に、別の2人の医師に心理療法を受けていましたが、どちらも行き詰まり、うまくいきませんでした。ある日彼女は、黄金でできた高価な装飾品の「スカラベ(黄金虫のこと)」を贈られる夢を見ます。
3)この夢について彼女が話していたまさにそのとき、ユングの背後の窓をコツコツ叩く音がしました。虫が窓に当たっていたからです。ユングが窓を開け捕まえると、それは黄金虫(こがねむし)でした。彼は「これが夢であなたに贈られた黄金のスカラベです」と言いながら、黄金虫をクライエントに贈ったのでした。それは彼女にとって、自分の夢が現実/物質化するという、「非合理的」「非現実的」な経験でした。このときを境に、合理性で凝り固まっていた彼女のパーソナリティに、変容のプロセスが始まったのです。
4)夢に見る、という「内的なできごと」に登場した黄金のスカラベと、面接中の現実に登場した黄金虫という「外的なできごと」の符合。ユングは、人の体験する意味ある偶然の一致を「共時性(シンクロニシティ)」と命名しました。そして彼は、共時性が私たちを、変容のプロセスに着手させる、と考えました。
5)プロセスワークは、夢を2つに分けます。1つは、心の内面で見る夢です。夜見る夢が、その代表です。2つは、心の外面で見る夢です。それは、昼見る夢です。部屋に入ってきた黄金虫を、夢とみなすのです。心の内面で見る夢と外面で見る夢とは、「相似的に共起」している、と考えます。
6)そのとき私たちは、夜も昼も同じ、相似的な夢の中にいることに驚き、畏怖、不気味、不思議、神秘を経験します。自分を超えた何かが作動していることを感知し、硬直化した心に変容が起き始めます。できごとが単なる事象ではなく、わがこと/自分ごとになり、心の変容に着手せざるを得なくなります。
7)ユングは共時性を、「夜見る夢」と同じように考えました。夢と同様、日常でのできごとに対し「対立&補完」するもの、ととらえたのです。さきほどの女性クライエントは、現実的で合理的なパーソナリティに凝り固まり、治療に行き詰まっていました。それと対立し補完する、まさに非現実的で非合理的なできごと、すなわち共時性が起きたのです。
8)ここで、忘れてならないポイントがあります。それは、「セラピスト」という「仲介者」の存在です。女性クライエントは、ユングというセラピストがいなければ、意味ある偶然の一致(共時性)を、体験できなかったでしょう。彼女の硬直化したパーソナリティに、変化は起きなかったでしょう。
9)もうひとつ、忘れてはならない重要な観点があります。それが「時間」の存在です。セラピストが、クライエントの変容の「仲介者」として機能するためには、「クロノス」時間における中長期的関係へのコミットメントが、不可欠です。クロノス時間とは、時が「過去-現在-未来」と線的に進む、私たちになじみのある時間です。
10)サン=テグジュペリ著『星の王子さま』では、地球で独りぼっちの王子さまの前に、キツネが現れ、クロノス時間を通じた関係へのコミットの大切さを教えました。キツネは、次のようなことを伝えます。「自分の星にいたとき、君はあのバラに毎日水をやり、害虫を駆除したり、太陽の方に向けてやったりして、大切にしてきた。誰かとかけがえのない絆を築きたいなら、そうやって時間をかけて相手との関係にコミットしなければならない」と。これは、相手への、そして相手との関係への、クロノス時間に関するコミットメントです。
11)心理療法も同じです。セラピストはクライエントへの、クライエントはセラピストへの、さらにお互いによる関係への、クロノス時間を通したコミットがあってこそ、共時性が活かされます。(注:この点は非常に重要です。セミナーでも丁寧にお伝えしていきます)
12)一方、共時性は「カイロス」の時間です。客観的、社会的、外的なクロノス時間とは違い、それは、主観的、個人的、そして内的な時間です。
13)共時性は、人為的に起こすものではなく、起きるもの、起きてしまうもの、です。深層心理学は、セラピストがクライエントを治療するのではなく、「時」「時間」「関係」が、クライエントを癒す、と考えます。
14)「時熟」という言葉があります。また「時間が解決する」とも言われます。時が熟するのを、また人ではなく時間が解決するのを待つこと。
15)深層心理学セラピーの基本は、機が熟し、クライエントにとって対立的&補完的な共時性が起きるのを、待つ姿勢です。待つことは、受け身で何もしないことではありません。ユング派の河合隼雄氏は、「何もしないことに全力を尽くす」と言いました。それは待つことに、能動的に尽力することです。
16)心理療法で共時性は、「行き詰まった」時に生じることがよくあります。先の女性は、合理性に凝り固まり、行き詰まっていました。それまで出会った2人の別の医師との治療関係も、行き詰まっていました。彼女とユングの関係も、行き詰まり始めていたと推察します。
17)共時性は、意味のある一致体験ですが、だからこそ想定外で、ショック、不気味さ、畏怖、神秘、不思議さを伴う「危機」です。「危険」と「好機(チャンス)」が一緒にやってきます。
18)それはときに、「3F」の反応を引き起こすほどの驚愕体験です。3Fとは、Fight(闘争)、Flight(逃走)、Freeze(凍結)の3つの単語の頭文字をとったもの。共時性には、従来の私(自我)にとって、それほどの脅威ともなりかねない敵対的、対立的な側面があります。ユングの支援がなければ、彼女はそれを、「変容」に結びつけることをできなかったでしょう。
19)さて、自己心理学のH.コフートは、自己愛的期待が「想定外」に裏切られたとき(幻滅体験)が、パーソナリティ変化の危機であると考えました。そのときの「危険」をうまく回避し、「好機」として活かすと、変容が生じる。コフートはそれを、「変容性内在化」と呼びました。
20)セミナーでは、想定外の共時性を、変容に結びつけることを、体験的なワークを通じて身に着けていきます。変容を、心に内在化=血肉化することを、試みます。危険を回避し、好機を活かす方法に取り組みます。
21)今回のセミナーも、前回に続き、体験的ワークを中心に進めていきます。そのために、以下のことをご準備ください。(セミナーの中でも準備する時間をとる予定です)
- あなたが今、行き詰まっていること、八方ふさがりのことを、1つピックアップします。
- あなたにとって、想定外の「外的なできごと」を1つ思い出してみます。
- 心に浮かんだ気持ちや考え、あるいは夜見た夢(これらは内的な体験です)を1つ思い出します。
22)セミナーにご参加されるにあたり、
- ノート
- 画用紙
- クレヨン、色鉛筆または絵の具など
をご用意ください。
23)共時性の生じるタイミングを、M.エンデは「星の時間」、F.ドナーは「魔女のリンクの廻るとき」、禅仏教は「啐啄(そったく)同時」と呼びました。エンデ、ドナー、禅、ユング、ミンデル、コフートを参照し、セミナーを進めます。
24)クロノスは、昼の太陽の時間です。カイロスは、夜の星の時間です。セミナーでは、太陽の時間と星の時間を敬い、2つの時間の出逢いから、変容過程について考えます。ワークを通じて、体験的に学びます。
25)今回「変容の過程と共時性(シンクロニシティ)~『太陽(クロノス)の時間』と『星(カイロス)の時間』の出逢うとき~」にご関心のあるセラピスト、カウンセラー、コーチ、教師、グリーフ・ケアワーカー、コンサルタント、ファミリービジネスの専門家、福祉や医療関係者のご参加を、お待ちしています。このテーマにご関心のある一般の方、初心者の方のご参加も大歓迎です!
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日時■ 2025年7月27日(日)10:00~17:00
会場■ zoomオンライン会議(お申し込みいただいた方に詳細をお伝えします)
費用■ メールマガジンにてご案内しております。
講師■ 富士見ユキオ・岸原千雅子